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「創造階級」と「ニコ動」の落差~『自由に生きるとはどういうことか』
橋本努著(評:栗原裕一郎)

ちくま新書、780円(税別)

  • 栗原 裕一郎

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2008年2月20日(水)

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評者の読了時間4時間00分

自由に生きるとはどういうことか 戦後日本社会論

自由に生きるとはどういうことか 戦後日本社会論』橋本努著、ちくま新書、780円(税別)

 最近「自由」が流行っている。

 もっとも、若手人文系学者界隈でだけ、だが。

 さて本書も、期待される若手人文系学者のひとりに数えられるだろう著者が「自由」について論じた一冊で、「自由」という理想が戦後どのように変遷してきたかを、象徴的なサブカルチャー作品を節目に置くことでコンパクトに概観したものだ。

 象徴的作品(存在)として置かれているのは、田村泰次郎『肉体の門』、デフォー『ロビンソン・クルーソー』、岡林信康、『あしたのジョー』、尾崎豊、『エヴァンゲリオン』などで、それぞれの作品(存在)で求められていた「自由」という理想の内実を、同時代の思想とシンクロさせ読み解くというのがアプローチの基本線である。

 終戦から現在までを5つの章で区切り、各章でそれぞれの時代の「自由」のあり方が論じられる。簡単にまとめると、

  • 終戦直後=「エロスの解放」(『肉体の門』×坂口安吾『堕落論』)
  • 1940-60年代=「市場経済のなかの近代的人間としての自由」(『ロビンソン・クルーソー』×大塚久雄の自由主義)
  • 1960年代後半=「高度成長期と反抗する若者」(『あしたのジョー』×全共闘ほかの抵抗)
  • 1970-80年代=「管理社会の否定」(尾崎豊×フーコーの「生-権力」)
  • 1990年代=「終末思想と自分探し」(『エヴァ』×オウム真理教)

 というところか。

 個々の作品の解釈などに異論のある人もいるに違いないが、時代時代の「自由」(そして「不自由」)はひとまずよく抽出されているといっていいんじゃないだろうか。サブカルチャー論としても近年出色である。ここまでダイナミックに、さしたる破綻もなく、戦後の社会と思想とサブカルチャーのうねりをまとめあげた力量と手際は素直にかなりすごいと思う。

来るべき「自由」は、「レオン」や「ソトコト」読者のもの?

 ところが、未来の「自由」を論じる終章「21世紀の自由論」は、一転、まったくいただけないものになるのだ、これが。

 一言でいうと、著者は「ボボズ」のような生き方を来るべき「自由」と考えている。

 「ボボズ」とは「ブルジョア・ボヘミアン(Bourgeois Bohemians)」の略語で、米ジャーナリスト、デイビッド・ブルックスの『アメリカ新上流階級 ボボズ』(2000年。邦訳は02年、光文社)に由来する。そのライフ・スタイルは、消費社会には否定的だが、地球と自分の快適を優先するというお題目のもと、自然食だの“ホンモノ”にはカネを湯水のように使い、文化などもせっせとたしなみ、酒もタバコもやらず子煩悩で……という具合で、まあロハスやスローライフと変わりがない。

 代表格的存在とされるのは、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのようなIT長者であり、ようするにヒッピー文化を内面化した世代のうち成功した連中である。

 2007年にはわれらがニッポンでも『BOBO'S』というそのまんまのタイトルの雑誌が創刊した。日本のボボズは(仮にそんなのがいるとして)、年齢的には団塊の世代以降くらいだが、ITベンチャーの成り上がりという点ではヒルズ族あたりが相当するだろうか(カウンターカルチャーとは無関係になるけど)。『レオン』や『ソトコト』のターゲット層とたぶん被る。

 橋本は、米の都市経済学者リチャード・フロリダの説に依り、アメリカではボボズのような「創造階級(クリエイティブ・クラス)」、具体的には、科学技術、建築、デザイン、教育、アート、エンタテインメントなど「創造的な仕事に就いている人々」がいまや資本主義の駆動力になっており、日本でも「創造的」に生きることが「自由」の理想になっていくだろうという。

 しかし、格差の拡大いちじるしい日本において、とりわけ「下流」の連中にとって「創造的になれば自由になれる!」なんて寝言もいいところではないか?

コメント8件コメント/レビュー

よい書評だと思います。これからもよろしく御願いします。(2008/02/25)

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いただいたコメント

よい書評だと思います。これからもよろしく御願いします。(2008/02/25)

記事の中で米国のボボスの代表として挙げられているビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスに対して、コメントで挙げられている日本の代表がオタク文化の担い手(同人誌の製作者、フィギュアのカリスマ原型師など)だとしたら、勝負になりませんな。少なくとも、日本にも経済的自由を得ている方は、オタク関連業種などではない、他の分野にたくさんいますよ。(2008/02/21)

評者の的確で鋭い批評に、唸らされました。「創造としての自由」と言ってみたところで、カネの流れを現実に引き寄せることができなければ、下流の「金か夢かわからない暮らし」には出口などなく、本当の「自由」など望むべくもないだろう、と思ってしまいます。(2008/02/20)

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