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学校選択制は、「ダメな学校」を構造的に作り出す
~「教育の質の選択」という神話

  • 広田 照幸,斎藤 哲也

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2008年2月21日(木)

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【特命助手サイトーの前説】

 広田先生も冒頭で語っていますが、教育再生会議が1月25日に最終報告を発表しました。安倍前首相の肝いりで設置された組織でしたが、まさかの辞任後、福田内閣になってから、明らかにその存在感は失われていきました。

 おそらく第三次報告に書き込まれていた教育バウチャーも、現実的には大規模な実施には至らないように思います。ただ、その一方で、学校選択制を義務教育段階から採用する自治体は増加しています。

 内閣府の2006年の調査によれば、小学生~高校生の保護者の67.9%が学校選択制に賛成意見を示しているそうです。たしかに保護者や子どもの側からしてみれば、学校を選べることは、メリットこそあれ、不利益はないように思えます。

 でも、それは「保護者と子どもが学校をちゃんと選べる」ということを前提とすれば、の話です。実際は、さまざまな家庭があって、その家庭ごとに学校を選ぶための情報収集の度合いもだいぶ異なっている。そういった情報アクセスの問題を無視したまま、いたずらに学校選択制を実施すると、「意図せざる結果」を引き起こすことになってしまうのではないか、というのが今回のお話です。

 今回もみなさんからのご意見、ご感想をお待ちしております。

 教育再生会議の第3次報告が昨年の12月25日に、最終報告が今年の1月31日に発表されました。再生会議の大きな焦点のひとつだった教育バウチャーに関しては、会議の内部でも導入論には慎重な意見も強く、結果的に、「各教育委員会の独自の判断」によるモデル事業として実施、というところにとどまりました。

 バウチャー(voucher)は「引換券」「利用券」の意味で、教育バウチャーとは、教育予算として組み込まれている学校教育費の補助金を、学校単位ではなく、クーポン券のような形で個人(子どもの保護者)に配ることをいいます。実際の運用では、クーポン券を渡さずに、入学者数に応じた補助金を学校に交付する場合もありますが、いずれにしても「個人」を単位として運用する補助金交付の形態の制度であることは変わりません。

 この教育バウチャーをめぐっては、教育再生会議のなかでも、否定・慎重論と推進論が厳しく対立していました(11月1日合同分科会議事録参照)。

 バウチャー推進論者は、教育バウチャー制度によって「教育がよくなる」と連呼しているのですが、私には、どうも納得ができません。どうしてあんなにラフで楽観的に導入推進を主張できるのですかね。

 報告案のなかで、バウチャー制度については、こんなふうに記されています。

〈学校選択制を通じ、児童生徒が多く集まり、保護者の信頼の厚い学校に、予算配分を増やすこと(ここで言うバウチャー的な考え方)により、学校、教職員のインセンティブが働くようにする〉

 実は、推進論者の白石真澄氏自身も「毒薬にもなっている国もあるし、良薬になっている国もある」と言っています(11月1日合同分科会)。しかし、いま推進論者が提案している形のバウチャー制度を日本で実施したら、どうしてそれが毒薬にならず良薬になるのかについては、ほとんど説明されていないのです。「これさえ飲めばガンが治りますよ」という、怪しいセールストークを聞かされているような気分です。

バウチャー制度の成否の大きな鍵は、私学の扱い

 経済学者の赤林英夫氏は、「教育バウチャーは、導入の方法により、教育機会の拡大に関してまったく逆の効果をもたらしたり、従来の私立学校の性格を大きく変更させたりする政策である」と指摘しています(「的外れな日本の教育バウチャー」『中央公論』07年2月)。その通りだと思います。教育バウチャーは、現在の条件・状況(初期条件)+導入しようとしている制度のあり方(改革案)の二つによって、生じる結果は大きく違ってきます。

 ただ、もし仮に、推進派が描いているバウチャー制度が導入されるとすると、「最悪のシナリオ」と赤林氏が呼ぶものになってしまう可能性が少なくありません。

 「最悪のシナリオ」というのは、ニュージーランドのように、学校間の格差が拡大していき、バウチャーが実質的に富裕層への補助金になってしまう、というものです。

 というのも、いままでの議論をみるかぎり、私学にどう手をつけるのかが全然議論されていないし、競争状態を作り出すための条件、すなわち公立学校のカリキュラム編成などに自由度をどう与えていくかという議論もなされていません。

 つまり、公立学校が私立学校と対等な条件で競争できるようにするにはどうすればいいのかという議論が、まったく欠けているのです。私学を経営している人にとっては、触れてほしくない論点かもしれません。

 具体的にはこういうことです。私学の自由度(特に授業料徴収の自由、選抜の自由)が保持されたまま制度が運用されたら、私立の学校は競争条件に変化がないまま、今までよりもはるかに多額の補助金を「児童・生徒の数」に比例して受け取るようになってしまいます。

 そして教育予算は大枠がかぎられていますから、結果的に、公立学校への財政配分は低下します。私学に食われてしまうからです。また、赤林氏がいうように、選抜の自由が保持されたままでは、バウチャーは私立に子どもを通わせたい教育熱心な富裕層への補助金にしかなりません。

 同時に、公立学校は人気校・不人気校に分化していきます。学校選択制をやってきている品川区でも、そういうふうになっていますけれども、生徒が集まらない不人気校には予算をカットする、というふうになると、その流れに拍車がかかります。「うちの子の学校は少人数でいいわぁ」なんて、呑気なことを言っていられなくなってしまいます。

 推進論者が抱いてきた願望と違って、生徒の問題行動の総量は減らないで、ひょっとしたら増えるかもしれない。しかも、「問題集中校」みたいな形で、特定の公立学校は、今以上に大変な状態になっていくんじゃないでしょうか。

【サイトーのちょっと長い注】

 「私学の扱いを考えずにバウチャー制度の検討を行うことは、公立にとって一方的に不利になる」理由を、サイトーなりに噛み砕いてみます。

 「授業料徴収の自由」とは、「バウチャーのみで授業料を賄う」「バウチャーでは足りない分は別に徴収する」「バウチャーの有無にかかわらず、同額の授業料を徴収する」という選択を、私学側に任せるということ。「選抜の自由」とは、入試を行うかどうかを学校側が選べる、つまり“現状”のままにしておけるということです。では、学校側に「選抜の自由」を与えないとどうなるかというと、例えば試験ではなく、入学希望者に対して「抽選」を行う、ということになります。

 バウチャー制度の導入に際し、私学に対して「授業料徴収」と「選抜」の自由を与えない場合は、生徒(と生徒の家庭)の能力や事情とは無関係に入学者を選ぶことになる。この場合、私学と公立とが競うポイントは、まさに「教育の内容」のみとなります。自由度を保持したままでは、「教育に関心の高い、裕福な家庭」の「試験の点が高い子」を私学側が集めることができる(これが現在の状況)ことに加えて、彼らに与えられたバウチャーが私学に与えられる分、公立に回る配分が減ってしまうわけです。

バウチャー制度は「神話」だらけ

 おそらく、バウチャー制度推進論は私が見るところ「神話」だらけだと思うんですね。とりあえず、おもいつくままに挙げれば、以下の4点が挙げられます。

  1. 「親や子どもは『教育の質』を判断して学校を選ぶ」
  2. 「バウチャー制を導入すると教員が『やる気』を発揮するようになる」
  3. 「選ばれなかった不人気校には、優秀な校長や教師を送り込んで立て直す」
  4. 「公立校は、私学と対等な競争にさらされて、否応なしによくなる」

 これらのいずれも、慎重な考察や議論がないまま、バウチャー制度のメリットとして挙げられていますが、もし実際にやったらどうなるのか。日本の学校の現実をふまえると「そううまくはいかないだろう」という点がいっぱいあります。

 前置きが長くなりましたが、ここでは、このうちの1について考えてみましょう。というのも、私の見るところ、2~4の前提には1(親や子供による教育の質の判断が可能)があり、にもかかわらず、バウチャー議論のなかで、ほとんど考察がされていない論点だからです。

 はたして、「教育の質」は外から見て判断が可能なのか?

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