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天皇・皇后からヤクザまで~『枢密院議長の日記』
佐野眞一著(評:小田嶋隆)

講談社現代新書、950円(税別)

2008年2月26日(火)

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評者の読了時間8時間00分

「枢密院議長の日記」

枢密院議長の日記』佐野眞一著、講談社現代新書、950円(税別)

 大正時代に枢密院議長をつとめた倉富勇三郎という人物が書き残した日記についての「通読ドキュメント」である。

 帯(裏表紙側)に「一読茫然」とあるが、たしかに、読後、しばし茫然たらざるを得ない。人がものを書くということがどういうことなのか、あらためて考え直した。

 読了時間について、一応8時間というふうに記載しているが、実際にはもっとかかっている。一気に読み終えることができなかった本の場合、同じ箇所を読み直したり、前に戻ったりする必要が生じるからだ。とにかく大変だった。

 とはいえ、読者の大変さなど、執筆した佐野眞一氏の苦労に比べればなにほどのものでもない。

 佐野眞一と「枢密会」(倉富日記の輪読会のために参集した数名のスタッフ)の面々は、2000年以来6年間にわたって倉富日記の一部(大正11年から12年、および大正期の重大事件周辺)を解読する作業に従事し、あわせて日記本文をパソコン打ちのテキストファイルに打ち直した。タイプされたテキストの量は、400字詰の原稿用紙で換算しておよそ5000枚にのぼるという。普通の新書にして約10~15冊分だ。本書と同じ辞書ライクな厚さの新書に直しても5冊にはなる。驚くべき泥んこ仕事と申し上げねばならない。

 が、その営々たる反復労働とて、ネタ元の書き手である倉富勇三郎その人の作業量と比べれば、ほんの気まぐれに過ぎない。

 倉富日記の分量は、おそらく世界一だ。手帳、大学ノート、便箋、半紙など297冊にペン書きにされた日記本文は、活字としてそのまま翻刻すれば、分厚な本にして50冊はくだらないという。一日あたりの文字量は、多いときには原稿用紙50枚を超えたらしい。

記録こそすべて、誰にも遠慮はかけらもなし

 本書は、基本的には、日記の内容を紹介する部分と、当該の日記本文が書かれた当時の世相や日記内の登場人物について解説する部分が交互に登場するカタチで構成されている。で、それらの合間に、佐野眞一の感想が挿入され、次の章に進む。

 日記の文章そのものはさして面白いものではない。というよりも、佐野自身が「無味乾燥」「死ぬほど退屈」「益体もない」「うんざりする」と形容している通り、およそサービス精神のかけらもない役人の報告書の如きものである。

 が、そのどこまでも「記録」ということに専念しきった文体が、三越や白木屋での買い物の詳細や、職場でのやりとりを執拗に書き連ねる時、そこには一種のユーモアの如きものが宿ることになる。

 たとえば、耳鼻咽喉科での診療について記録したくだりは以下の通り。

「午前八時より高成田の家に行き、耳及咽喉を療せしむ。真鍮管を鼻腔に入れ、護謨(ゴム)管を以て風を送り、耳に通ぜしめんとす。真鍮管の送入意の如くならず、遂に止め、只護謨管を以て外部より風を送り、鼓膜を震動せしむ」

 ほとんど癇性と言って良い記述の細かさである。かように、倉富は、家庭内の些事であれ、政府の決定事項であれ、大臣や文化人との会話であれ、まったく差別なく、すべてを手抜きなく、昆虫の如き着実さで、執拗詳細に記述して行く。まことに驚くべき情熱である。

 倉富の日記は、全体としては、「日記中毒者」による連綿たる独白以上のものでない。が、枢密院という政権の中枢で議長まで勤めた人間の手になる記述だけに、思わぬ場所に第一級の歴史的証言がまぎれこんでいたりする。

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「天皇・皇后からヤクザまで~『枢密院議長の日記』
佐野眞一著(評:小田嶋隆)」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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