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誰でも知ってるあの絵の意味は~『ゲルニカ』
宮下誠著(評:山本貴光)

光文社新書、850円(税別)

  • 山本 貴光

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2008年2月27日(水)

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評者の読了時間3時間20分

「ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感」

ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感』宮下誠著、光文社新書、850円(税別)

 絵を見ることは、とてもたやすいことであり、同時にとても困難なことでもある。

 眼を向ければ絵はそこにある。だが、小説や音楽や映画のように、文字や音や映像の流れに身を任せられるものではない。多くの場合、絵のなかに明確な始まりや終わりもない。画面はいつでも一挙に見る者の前にあり、視線はいかようにも動かせる。加えて、印象派の絵画に顕著なように、絵との距離によって見え方も変わる。

 とはいえ、神話や聖書のエピソードを描いた絵のように、題材や描かれた物語が明確であるならまだしもだ。「ああ、あの物語か」と、一旦は了解することができるから。しかし、これがピカソの「ゲルニカ(Guernica)」(1937年)ならどうだろう。

 実物でも複製でもネット上の画像でもよいので、まずは虚心坦懐に「ゲルニカ」をじっくりとご覧いただきたい(本書の巻末にも複製が折り込まれており、これを広げると絵を見ながら本文が読めるよう配慮されている)。幅およそ8メートル、高さ3メートル半という見る者を呑みこむようなサイズも念頭に置こう。

 画面にはなにが描きだされているだろうか。

 牡牛や鳥、槍に貫かれた馬、横たわる兵士、赤ん坊を抱いて泣き叫ぶ女、両手を天にかざすようにした女、前のめりになった女、窓からランプをかざしている女、眼のようにも見える電球……。

 ひとつひとつの要素は、このように見てとることができる。そういう意味でなら、この絵には抽象画のようなわからなさはない。さらに言えば、「これは、ゲルニカ空襲の惨劇を告発する、反戦のシンボルとも言える絵だ」という教科書的な知識があると、かえって「なるほど、そういう絵ね」と簡単に了解されてしまうかもしれない。

 しかしもう少し絵そのものを凝視してみよう。室内とも屋外とも言いがたいようなこの場所はどこなのか。これがなぜ「ゲルニカ」なのか。女たちや兵士や馬が戦争の犠牲となった者であるらしいことはわかるとして、そんななかでどこか超然とした牡牛はいったいここでなにをしているのか。なぜモノクロームなのか。そういえば、加害者と思しき姿も見えない。見れば見るほどわからないことが増えてくる。

 本書は、この「ゲルニカ」という不可解な絵を、とことん見尽くそうという試みである。著者もまたこの絵に異質なものを感じとって、こんなふうに述べている。

完成までの流れを写真付きで追える

〈『ゲルニカ』はむしろ、落ち着いた佇まいさえ感じさせ、古典的で宗教的な静謐さを備えている。と同時に、どこか、見る者を愚弄するような、見る者の神経を逆撫でするような過度の大袈裟さが確かに存在する。画面に漂う、この相反した印象は、作品全体のあり方にも言える。激しく動いているようでいて、動いていないようにも見える。悲劇的なようでいて、どこか滑稽にも見えないだろうか〉(p.10)

 絵から受け取る印象が定まらず、相反する解釈を同居させているかのような不安定さと違和感。この感覚に促されて、著者は「ゲルニカ」に迫ってゆく。

 まず、作品が作られた経緯を確認しておこう。1937年4月26日、スペイン・バスク地方の都市ゲルニカをドイツ軍の爆撃機が襲った。数時間にわたり爆弾や焼夷弾の雨を降らせ、市民を機銃掃射で殺戮し、都市を壊滅させる。これは、スペインで内乱を起こしたフランコの要請でドイツが送った部隊の仕業である。パリでこの事件を知ったピカソは、パリ万博(1937)のスペイン館のために依頼されていた絵のテーマを、ゲルニカに定めた。

 ピカソは「ゲルニカ」制作にあたって多数の習作を描いており、それとともに、写真家ドラ・マールが制作過程を八段階に分けて撮影した写真も残っている。本書では、これら都合50点ほどの図版を提示しながら、画家が素描を開始した5月1日から6月4日の完成までの流れを追跡している。この部分を読むためだけにでも本書を手にする価値があるだろう。

 興味深いのは、習作にあらわれている多様性だ。ピカソは、牡牛なら牡牛というモティーフを、写実的なタッチから極度にデフォルメされたものまで、到底同じ対象を描こうとしているのだとは思えないほど、さまざまな姿で描いている。

 たとえば、牡牛が馬に襲いかかる構図がある。

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