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この自称フツーのOL、出来る!~『黒山もこもこ、抜けたら荒野』
水無田気流著(評:朝山実)

光文社新書、700円(税別)

2008年2月28日(木)

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評者の読了時間3時間30分

「黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望」

黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』水無田気流著、光文社新書、700円(税別)

 小学校の頃、給食を残すたび、教師から「戦前の貧しい時代を思いなさい」「アフリカの貧しい子どもたちのことを考えなさい」と怒られ、「道徳」の時間には、障害者が懸命に努力する姿をテレビで見せられ「あなたたちはもっとがんばらなくてはいけません」と言われた、と著者は綴っている。

 1970年生まれだというから、70年代と80年代をまたいで小学生だった。肩書きは、詩人で社会学者。ぞくに「団塊ジュニア」と呼ばれる、大勢「みんな」のなかの「一人」として目立たず大きくなった、そんな著者による異色の自伝コラムだ。

 目立たない子供であろうとしたからこそ、まわりがよく見えていたのだろう。書いてあることはごくごくフツーなのだが、光の当て方はほんの少しだけズレていて、角度のちがいが、くすくす笑いを誘う。その笑いは世代を超えたものだ。

 冒頭の話に戻すと、ワタシは著者よりひとまわり年上だが、まったく同じことを親だけでなく姉たちからも言われたものだ。

 著者は、教師の紋切り調のお説教に、納得がいなかったそうだ。「感想文」にこう書いている。

 「人は誰でも自分に与えられた条件のもと、精一杯がんばって生きていくことしかできないのだから、そういう人たちを自分たちより『下』と決めつけて、自分たちを幸せだと思いなさいというのは、貧しい国の人たちにも、障害者の人たちにも失礼なことだと思います」

 しっかりと「自分の意見」をもった子供ぶりである。大人となった著者は当時を振り返り、教師たち大人の事情をこんなふうに整理している。

〈今にして思うと、教師は子どもたちに、日本の「平均的」生活を心からありがたいと思わせなければならないという不文律があったのだろう。/「戦前」や「貧しい国」、それに「障害者」がよく引き合いに出された記憶があるのは、そういった例くらいしか「わかりやすい他者」が想定できないほど、ベッドタウンの公立小学校が均質的だったからであると思う〉

 ニッポンが自信に溢れていた時代。恵まれ豊かな国に生まれたことに誇りをもちなさい。教師は、異論がないはずのものを比較の例にあげ、「がんばれ」と発奮させる材料とすることに何の疑問も抱きはしなかった。教育とは、黙々と働く「将来の労働力」を養うことであり、それが国の方針でもあった。とはいえ、「ありがたいと思いなさい」という押し付けには、隠然とした格差意識が潜んでいた。

 格差づけに対して、子供は敏感だ。微妙なものであればあるほど。何の疑いもない大人の言葉にも、ひっかかりを覚えるものである。

 著者の感想文に、教師はどうしたか?

 ×をつけて返した。きっと、大きな、教師の感情のこもったバツだったことだろう。

 これ自体は、大人気ない教師とクセのある子供との、よくあるエピソードのひとつでしかない。むしろ、誰しも抱える記憶をもとに、社会や時代を見通そうとするところに本書の独自性がある。

「がまん」して出た世の中は就職氷河期

 著者は、繰り返し、自分は個性的ではないと言い含める。大勢の「みんな」のなかで頭ひとつぶんナナメに抜け出ているのは、全体を見渡すことのできた自意識のありようにある。

 「あれはなんだったんだろう」と少女の頃を振り返る記憶の断片群がささいであるほどに、エピソードはいきいきと普遍化されてゆく。

〈人生における最古の「壮絶なる人混み」の思い出は、幼稚園児のときに見に行った上野動物園の初代パンダ、ランランとカンカンであった。(中略)二頭ともぴくりとも動かない。後で父が苦笑いしながら、「あれではぬいぐるみを見たのと変わらないな」と言った。/悲しいことに、三〇年たった今も、パンダのことを思い出すたびに、檻の前に人の頭が山のようにもこもこしていた画が消えないのである〉

 タイトルの所以は、そんなふうに、著者が学校行事や、家族で行ったディズニーランドなどで「もこもこ」の頭の山に囲まれて大きくなった世代の一人だったことにある。

 付け加えるなら、青春期は「アカルクタノシイ消費社会を謳歌する」80年代だったものの、「倹約は美徳」がモットーの親はまだまだ元気で何かと「がまん」を強いられた。

 財布を握るのは「それは今必要なのか?」が口癖の父で、冷蔵庫は漏電の恐れが出るまで使い続け、テレビはゴーストが入ってもまだ買い換えを許さなかったなど、とほほな「サザエさん」的な悩みを、さりげなく語ってみせるあたりに著者の人となりがうかがえる。

 さあ、これで家族の呪縛から逃れられる。著者が意気込み、大学を出る頃には、バブル崩壊直後の「就職氷河期」。夢はしぼみ、荒野を歩く気分。

 ボティコンにTバック姿のおねえさんたち、あれは何だったの?

 その後も、高度経済成長を支えた価値観はドミノのように倒れ去るなかで、親から刷り込まれた「勤勉」な生き方、感覚はそうそう簡単に切り替えられるものでもなく、あとからやってくるサバサバした後輩との板ばさみで、会社では二人分の仕事をこなせども給料が上がるわけでもなく、損ばかり。「もこもこ」世代ならではの嘆きを、ユーモラスに綴っている。

 ぼやくだけではない。ところどころで、辛口にこう切り返してみせる。

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