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(15)集合住宅でも「終の棲家」になれる

団地に生まれた介護&子育て支援NPO

  • 山岡 淳一郎

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2008年2月27日(水)

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 国交省が2003年度に実施した「マンション総合調査」では、分譲マンション住民の約5割が、そこに「永住するつもり」と回答している。集合住宅は現代の「終の棲家」と呼ばれるようになった。

 私たちは、終の棲家といえば、末期の水をどこで、誰に、と考えがちだ。しかし、多くの人にとって「死」は、ある日、突然襲ってくるものではない。日常生活の延長上にある。WHO(世界保健機関)の2004年レポートによれば、日本人の心身ともに自立して生活できる「健康寿命」は、男性72.3歳、女性77.7歳。統計上は、男女ともそれから7年前後、他人の手を借り、病院への入退院などを経て終末へと向う。

 この期間を、いかに住み慣れたわが家で自分らしく暮らすかが、現代の終の棲家を問うポイントとなる。「地域」が持つ重要性も高まってくる。

 マンションは、意識するとしないに係わらず、わが家と地域が一体となった存在だ。その集まって暮らすメリットを生かし、マンションを終の棲家にするための「支えあい」を住民自身が事業化する動きが、すでに始まっている。

なぎさニュータウンの挑戦

 東京江戸川区、南葛西。川を隔てて東京ディズニーランドと向き合う形で、約3800人が暮らす「なぎさニュータウン」(築30年・1324戸)が広がる。日本勤労者住宅協会が開発した団地である。建設当時は、徒歩で30分以上かかる葛西駅との間にバス便もなく、住民が一致団結してバス路線を誘致した。かつて「陸の孤島」と呼ばれた場所ではあるが、いまでは道路が四通八達し、交通の便は格段に向上。一帯は海辺の人気エリアに変わった。団地の棟間隔は広く、プロムナードや広場がゆったりとレイアウトされており、開放感に満ちている。外観からは、とても30年経っているとは思えない。

 この団地の一角に「特定非営利法人 なぎさ虹の会」が、休眠状態だった学童クラブ場(江戸川区所有)を区から借り受けて拠点を構える。介護や子育て&家事、身障者自立支援などを行うNPOだ。虹の会には、団地の内外、約20名のヘルパーが登録しており、約400名の会員に対してサービスを提供している。運営の主力は、住民の主婦たちである。

 その始動は、99年、前身の互助組織「なぎさ助け合いの会」の発足にまでさかのぼる。

 きっかけは、自治会の全住民対象のアンケート調査。21世紀を見すえて、何が必要か、ニーズ調査が行われた。その結果、高齢者からは手の届かない電球を取り替えてほしい、病院へクルマで連れて行ってほしい、などの声。若い母親世代からは、お産の前後、家族の手がないので上の子の幼稚園の送り迎えを誰かに頼みたい、動けないので家事を代わってほしい、といった切実な要望が寄せられた。生活支援のニーズが、予想外に大きいことがわかった。

 一般に団地は高齢化が進んでいるとみられがちだが、なぎさニュータウンの高齢化率(65歳以上の割合)は、現時点でも16%程度。全国平均の20%を下回っている。これは江戸川区が子育て世代向けの施策を積極的に展開し、若い人が区内にどんどん流入していることも影響しているようだ。1999年段階での団地の高齢化率は、もっと低かった。

 しかし高齢者予備軍の団塊の世代が、圧倒的なボリュームで控えている。そのことを考えれば、もう始めなければ、と有志が集まって「助け合いの会」が立ち上げられた。世代を超えたさまざまな要望に対し、1時間600円で有償ボランティアが対応するしくみができたのだ。

 そのお金のやりとりにも「工夫」が凝らされている。

タダでは心苦しい、助け合いの心だけでは続かない

 タダで人にものを頼むのは心苦しいとあって有償にしたのだが、その都度、住民どうしで現金を受け渡しするのも無粋で気まずい。そこで「助け合いの会」事務局が600円×5枚つづり3000円のチケットを予め発行し、利用者はそれを購入しておく。ボランティアは、支援活動を行った後、利用者からチケットを受け取り、事務局に持ち込んで換金する。これなら現金の「生っぽさ」から解放される。一種の地域通貨のような発想で、チケット制が定着した。

 当初、百数十人で始まった互助組織「助け合いの会」は、年々規模が拡大する。加えて介護保険制度が発足し、利用者から介護サービスを求める声が大きくなった。

 2004年末、任意団体だった「助け合いの会」は、東京都の認証を受け、NPO法人に変わった。虹の会・池山恭子会長は、NPOに転換した理由を、こう述べる。

 「団地を終の棲家にするには、ボランティアでは限界があります。介護保険の導入後、継続的にサービスを提供するには、やはり事業化するしかないね、と皆で話合いました。たとえば、病院への送迎を、仲間内でお金をもらって行ったら、道路交通法違反になります。営業的な行為は禁じられていますからね。NPOにしたら、そこをクリアできる。実際に念願の福祉車両を購入し、10名ほどのドライバーが対応する体制が整いました」

 ちなみに福祉車両の購入費用270万円は、全額、住民の寄付。さまざまな催しなどの際に寄付を募って、福祉車両でのサービス提供が現実化した。大団地の財政的なスケールメリットと自治会を中心にした絆の強さが、NPO活動を下支えしている。

 「なぎさ虹の会」のユニークさは、世代間のギャップや介護保険制度の限界をしなやかに超えている点にある。とかく、マンションや団地内に高齢者関連の施設をつくるとなると若い世代から「老人マンションにしたくない。なんで年寄りだけが優遇されるのか」と反発が寄せられる。ところが、虹の会は、老若それぞれにサービスを提供することで世代間闘争をさらりと回避。むしろ若い世代が、親やきょうだいを「呼び寄せる」ケースが激増している。団地内に縁者が暮らす住民の割合が全体の15%というから、その居心地のよさが想像できる。

 介護保険サービスの限界も、独自の方法で補っている。

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