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『反米大陸――中南米がアメリカにつきつけるNO!』伊藤千尋著、集英社新書、700円(税別)
先月24日、カストロ議長退任後のキューバでは、実弟のラウル氏が新議長に選ばれた。
新議長をいち早く歓迎したのが、ベネズエラのチャベス大統領である。引き続き同国の石油を安価で提供するとし、キューバへの支援を表明した。
……などといった中南米関連のニュースは、日本のマスメディアでは報じられることが少ない。上記の「速報」も、インターネットで読んだものだ。
ベネズエラやペルーなどに友だちがいて、一度は訪ねて行ったこともある評者ゆえ、あのへんの動向には以前から関心がある。が、いかんせん、地球の反対側。自分とて、旺盛に情報収集しているとは、とてもいえない。
国連総会でブッシュを何度も「悪魔」と呼んだチャベスに代表されるように、中南米ではここ数年、「反USA」を掲げる政権が、次々誕生している。ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、ペルー、エクアドル、ニカラグア……。あたかも積年の恨みをはらさんがごとくの勢いで、だ。
以前新聞社の中南米特派員を務めた筆者は、中南米諸国がアメリカ合衆国(以下米国と表記)に反旗を翻すようになった経緯を、南北米大陸の歴史を振り返りながら検証する。
今世紀に入って反米政権が次々生まれた最大の理由は、米国の圧力により、1990年代に進められた新自由主義の経済政策だと、著者はいう。
親米政府の下で自由な競争が尊ばれた結果、米国を含む海外資本は潤ったが、地場産業の崩壊や公共料金の値上げ、失業者の急増などで、国民生活はボロボロに。上記の国々の大統領選で反米派が勝利したのは、国民が米国べったりの政府を見放した結果だった。
著者は米墨(メキシコ)戦争や米西戦争などに遡って、米国のやり口を追求する。
米国流、裏庭の作り方
長らく、中南米は「米国の裏庭」と呼ばれてきた。米国の利益のために石油が、フルーツが、運河が、そして国家そのものまでもが都合良く生産され、搾取され、地元資本や住民はことごとく脇へ押しやられていった。
自国の利益のためには現地政府と癒着し、必要とあらばクーデターもお膳立てする(バナナ産業と中米)。運河という利権のためには、コロンビアからの独立運動をたくみに利用して「傀儡国家」を建設する(パナマ)。
「中南米の歴史は、アメリカから収奪され続けた歴史である(中略)。アメリカが太るにつれ、中南米はやせていった。アメリカは過去に中南米で行ってきた侵略の方式を、そのまま今、世界中に広げている」
という著者は、米国が、「覇権の最初にどのような行動をとったかを見れば、現在の世界制覇につながる侵略のパターンが見える」という。即ち、
- 米国に都合の悪い政権を非難する(「悪の枢軸」など)
- 米国のいうなりになる兵士を集めて反政府ゲリラを組織し、自らの手は汚さずに気に入らない政権をつぶす
- ゲリラの兵力が頼りないときは、米軍が軍事顧問団として支援する
- 米国に従う人を代表にして、傀儡政権を樹立させ、その要請に応える形で海兵隊が出動し、武力で制圧する
などである。70-80年代に多くの国が軍政となった南米だが、悪名高きチリのクーデターなども、当時のニクソン政権が、CIAに莫大な資金を渡して、当時のアジェンデ政権を覆すよう、裏で手を貸したのだという。
反米強硬派のベネズエラと左派でも穏健派でBRICSの一角として巧く立ち回ってるブラジルをいっしょくたに扱うのもどうかと思いますが。そもそもベネズエラとて、石油の大半を買ってくれてるのは当のアメリカなんですから(地理的条件を考えると他に売るのは厳しい)、お釈迦様の手のひらでわめいているだけにしか見えません。どうも底の浅い反米本のような気がします。(2008/03/04)