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議論で負けたくないあなたに贈る~『打たれ強くなるための読書術』
東郷雄二著(評:麻野一哉)

ちくま新書、680円(税別)

  • 麻野 一哉

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2008年3月13日(木)

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評者の読了時間1時間30分

打たれ強くなるための読書術

打たれ強くなるための読書術』東郷雄二著、岩波新書、680円(税別)

 以前、いわゆる「南京大虐殺」に関して調べたことがあった。

 「大東亜戦争において、日本軍は南京で一般の中国人を30万人殺した」、「いや、南京の人口は30万人もいないから、ありえない」、「人数の問題ではない」、「一般人といっても、実は兵士が一般人の格好をしていただけだ」等、色んな説があり、いったいどれが本当の史実だったのか知りたいと思ったのだ。

 当初、何冊かの本を読み比べれば、何が事実かわかると思って調べ始めたのだが、甘かった。読めば読むほど、ワケがわからなくなった。

 「虐殺があった派」、「なかった派」、「中立派」などの派閥があり、それぞれが対立している。ある派閥は、「この事実から考えると、こういう結論になる」という。ところが反対派は、「その事実自体がウソだ」という。しかし、別の派閥は、「その事実がウソだという事自体が信用ならない」という。過去のことなので、伝聞や推測が飛び交い、まるで入り組んだ迷宮のようだ。

 とりあえず、「これは事実っぽい、これは推測かも」という風に、心の中で色んなことを「保留」しながら読み進めるが、これがなかなか辛い。スッキリと気持ちの整理がつかないから、モヤモヤするのだ。ある種、脳に「粘り腰」が要求される。

 そのうち、それぞれの書き手をどこまで信用すればいいかという話になり、その根拠を求めるには、台湾の博物館で実際の資料を見ないことには……と思いいたって、評者はついにギブアップした。「南京大虐殺」でメシを食ってるのならともかく、単なるゲーム屋が趣味で調べるには荷が重過ぎる。

 「勉強が足りない」「根気がない」とおしかりを受けるかもしれないが、数週間、仕事の合間に調べる程度では、ラチがあかない。そのうち、新しい事実が発掘されることもあるだろう。気になる話題なのは確かなので、息の長いテーマとして、この先も議論の行く末を見続けて行こう、くらいの気持ちに切り替えたのだ。怠け者のようだが、それが評者にできる最大限の誠意ある態度と自分に言い聞かせた。

解答のない世界に宙づりで耐えよ

 しかし、この態度は意外とつまらない。新聞や週刊誌、ネットなどで、「虐殺あった派」や「なかった派」が喧々囂々とやっていても、どっちにもつけない。まあ、一種のコウモリだ。

 気持ち悪いが、しかしなあ……と思ってるところに、この『打たれ強くなるための読書術』を読み、評者は百の援軍を得た気持ちになった。

 著者はいう。

〈「知的に打たれ強い」というのはどういうことだろうか。それはいろいろなことについて知識を豊富に持っていて、議論で常に相手を言い負かすということだろうか。いや、そうではない。それはひと言でいうと、「正解のない世界に耐える」ということであり、ビターチョコレートのように苦み走った大人の態度なのだ〉

 よかった。評者は苦み走っていたのだ。

 この逆は、「知的に打たれ弱い」だ。著者は、最近の大学生がそうなってきているとして、「知的に打たれ弱い症候群」と名づける。以下がその症例だ。

  • すぐに解答をほしがる
  • どこかに正解がひとつあると信じている
  • 解答に至る道をひとつみつけたらそれで満足してしまう
  • 問題を解くのは得意でも、問題を発見するのが不得手である
  • 自分の考えを人に論理的に述べる言語能力が不足している

 個人的には耳が痛いが、なるほど確かにこれはいけない。こういうことにならないためにどうするか。著者は、書き手のことを鵜呑みにするのではない、「成熟読書」という読書法を薦めている。

 読書には、「初級読書」、「分析読書」、「比較読書」、「批判読書」という段階がある。

 「初級読書」は、書いてあることを字義通り読み取ることで、小中学生の読書はこれが目標である。

 「分析読書」というのは、本の要素を「事実」「推論」「主張」にわけて読むこと。そしてまずは「事実」を吟味するのだが、ここで信憑性の問題がでてくる。

〈一般の読者にとって事実の信憑性を自分で確かめることは難しい。その本がエジプトのピラミッドに関することだったとして、本に書かれたことを確かめるために、飛行機に飛び乗ってエジプトまで出掛けるわけにはいかない。そんなことをしていたら、マイレージは貯まるかもしれないが、勤務先をクビになるか破産してしまう。(中略)このようなとき、私たちが採ることのできる態度はひとつしかない。「判断をカッコに入れる」ことである〉

〈判断をカッコに入れたまま本を読み進めるというのは、かなり高度な知的作業であり、宙吊り状態に耐えるというのが成熟読書の要だと言ってもよい〉

 なんとなく、ほめてもらったようでうれしいが、それはおいておく。次は、「推論」だ。この部分は、ある原因と結果の間に、単純に一本の線を引くのではなく、「他の経路はかんがえられないのだろうか」という複線的思考をすることが重要だという。

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