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【第23回】 フランスの名演奏家たち(2)

ピアニストのダルベルトと名指揮者フルネの思い出

  • 諸石 幸生

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2008年3月24日(月)

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 川口さんが付き合ってきた数多くの名演奏家の中で、前回と今回はフランスの名演奏家に焦点を当てている。2回目の今回は、中堅世代の名ピアニスト、ミシェル・ダルベルト、そしてフランスを代表する指揮界の巨匠ジャン・フルネとの録音活動の回顧とその再検証である。いずれも川口さんが音楽的にはもちろん人間的にも強く共感してきたアーティストたちであり、刺激と驚きにあふれた録音活動が振り返られていく。

―― さて、ミシェル・ダルベルトもフランスの中堅世代を代表するピアニストですが、川口さんは積極的に録音活動を展開され、その魅力、個性といったものを日本に紹介されてきましたね。また川口さんとの録音活動はダルベルト自身にとっても彼の存在を広く世に知らしめる大きな力になったのではないかと思います。録音は1990年前後からスタートしたのでしょうか。

音楽プロデューサーの川口義晴さん

音楽プロデューサーの川口義晴さん (撮影:清水健)

川口: ダルベルトも最初はマネージャーに薦められたんです。仏エラートへの録音がありましたから、僕も知ってはいましたが。まあ、この人も指揮者のエマニュエル・クリヴィヌに負けず劣らずの問題児でしたね。なんていうのかな、人を寄せ付けない雰囲気があってね。いわゆる一般的なイメージでとらえられる社交的なフランス人じゃないんです。

―― 努力家といった感じも漂っていますね。

 もうめちゃくちゃに頭のいい人ですね。頭が良くて、しかも人付き合いが極端に悪いときているから。

―― 孤立無援?

 うーん、生まれ育ちが複雑なことも影響しているらしいですけどね。最初やったのはシューベルトだったかな

ぞっとするほど孤独なシューベルトを演奏した

―― シューベルトはソナタの全曲録音になったと思いますが、舞曲を組み合わせたのが面白かったですね。

 そう、舞曲も。ただ「ドイツ舞曲」なんてタイトルが付いた曲がたくさんあって、しかもその一つひとつが10曲とか20曲のセットになっている。単純な曲ですし、同じような曲なので、すべてを通してCDで聴くのは不可能です。それで、数曲ずつ抜粋して入れました。基本的には全曲入れたことになると思います。

 録音中のダルベルトを見たあるフランス人が、ダルベルトがあんなに心を開いている姿を見たことがないと言っていました。それぐらい僕は仲良くなったんです。ほかのフランス人の友人からは、どうしてあんなやつと仲良くするんだ、なんて言われたけど……。僕は彼の音楽が好きだったから。

 ダルベルトはぞっとするほど孤独な演奏をします。特にシューベルトでね。あんなに孤独な演奏をするピアニストなんて見たことないですね。時としてそれは非常に冷たい演奏になることもある。

―― そして真剣に考える人といったイメージも強いです。

 僕はよく見ていなかったけれど、確か2006年からNHKテレビの『スーパーピアノ・レッスン』にダルベルトが出演していましたが、僕は最近になってダルベルトが書いたテキストを読んだんです。作曲家・ピアニストの寺島陸也君なんかから出ていることを聞いて。それは「シューベルトの人と音楽 前フロイト風アプローチ」というタイトルでしたが、興味深いものでした。僕と録音していた頃はフロイトに対する興味なんてなかったと思いますが、やはり勉強していたんでしょうね。やっぱり彼もフロイトへいくんだと思ってとてもうれしかったですね。僕もフロイト=ラカン派ですから。

―― このほかにシューマンはインバルとのピアノ協奏曲があますが、ドビュッシーは?

 ドビュッシーは嫌いなんです。ショパンもね。

ピアニストのミシェル・ダルベルト

ピアニストのミシェル・ダルベルト (c)Fabre Brasselet 写真提供:梶本音楽事務所

彼の素晴らしさは磨き抜かれた知性に尽きます

―― フランス人なのにドイツ系の作品を得意とする辺りはイヴ・ナットみたいですね。

 それはいいんですが、マーケットというのは常識を尊ぶ世界でしょう。フランス人のベートーヴェンは聴きたくない、フランス人なんだからドビュッシーをやるのは当然といった風潮ですね。だからダルベルトの場合は彼がやりたいことをやれたのはよかったけれども、次への展開が会社の都合でできなかったのは残念でした。本当はもっといろいろと進めたかったんですが、日本コロムビア(現・コロムビアミュージックエンタテインメント)がもうどうにも立ち行かなくなってきて、大きなものはシューベルトで終わりましたね。モーツァルトのヴァリエーションとかの録音はありましたけどね。

 もっとも実際に僕が担当したのはシューベルトも最初の2枚ぐらいでした。あとは会社としても若い人を育てたい意向があって僕も任せようとしたんです。しかしなかなかうまくいかなかった。日本の方で人材がなかなか育ってこないから、ディレクターをスタッフのドイツ人に任せたこともありました。デトモルト音楽大学の音響コースを出たり、トーンマイスターの資格を持っている人がいますから。それでうまくいったかと言えば、そうとは言えない。

 後進を育てろと言われても、本当になかなか思うようには育ってくれない。それは日本人もドイツ人も同じです。特にドイツ人は自分は未熟だからという謙虚さはまったく持っていませんからね。やりにくいですよ。

―― ダルベルトはその後何を。

 モーツァルトのピアノ協奏曲をBMGに録音していますから元気だと思います。今度ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(会場:東京国際フォーラム、2008年4月29日から5月6日)にも出るらしいし。でも彼の素晴らしさは知性に尽きますね、あれは誰にも真似のできない世界です。

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