「マンションに住んで幸せになろう」

(16)大規模修繕を「スキップ」できる外断熱改修

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2008年3月27日(木)

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 「外断熱」という言葉は、世のなかにかなり広まった。

 建物のコンクリート躯体の外側に厚い断熱材を張りつけ、窓にも断熱性能の高い複層ガラスを入れる。いわゆる高気密・高断熱の代表的工法で、その省エネ性は従来の内断熱工法よりも優れる。欧米や近年の中国のコンクリート建物は外断熱が常識化。東京周辺でも外断熱マンションが建設されている。どちらかというと新しい工法のイメージが強かった。

 ところが、この外断熱、既存の建物の「改修」に使うことで従来の発想を覆す効果が期待できる。耐久性がアップし、大規模修繕の周期を大幅に伸ばす可能性を秘めているのだ。改修におけるコロンブスの卵といえよう。

 これが何を意味するか、マンションの管理組合に携わった方ならすぐお分かりだろう。

 これまで大規模修繕の周期は12〜13年といわれてきた。多くの修繕マニュアルにも、そう書かれている。そのたびごとに積立資金と借入金など巨額な資金が費消される。避けては通れない道とはいえ、住民にとって大規模修繕は頭が痛い問題だ。

 そこで、外断熱改修。建物を外側から断熱材で覆えば、外気温の変動によるコンクリートへの悪影響をほぼシャットアウトできる。雨水からも保護され、躯体の劣化を止められる。外壁が傷まないから、12〜13年に一度の大規模修繕をスキップできるというわけだ。

札幌の施工例を訪ねた

 札幌市中央区の「大通ハイム」。築後34年経過した全122戸、11階建てのマンションを訪ねた。大雪の日だったが、外断熱改修され、見た目も新しくなったマンションのなかは春のようだった。延べ面積1万平米を超える大規模マンションでありながら、地下の大型ボイラー1台が稼動する集中暖房で十分。暖冬だった昨年は「汗が出そうなくらい」温かだったという。省エネ性も極めて高い。

 大通ハイムが外断熱改修されたのは2004年9月〜12月にかけて。同ハイムに事務所を持つ建築士・佐藤潤平さんが設計を行い、改修工事が進められた。

 発端は、管理会社から提示された改修方法への疑問である。

 外壁の補修や屋上防水、給排水管の更新などの大規模修繕は、すでに行っていた。懸念されるのはボイラーで沸かした湯を各戸に送る配管の劣化だった。管理会社に提示された工事費の見積りは、目の玉が飛び出るほど高かった。佐藤さんは言う。

「調査しなくては、どこまで配管の劣化が進んでいるか分からない。一部の暖房配管を切断して、内部を調査してみました。すると案外、保存状態は良かった。まだまだ十分、持ちそうでした。むしろ外壁の傷みのほうがひどかった。とくに窓の下は、微細な亀裂がたくさん生じて、水が入ってきており、そのまま放置すれば経年劣化とともに数年でカビが生えて黒ずむ。見た目もどんどん悪くなる。サッシの下では、鉄筋が飛び出し、コンクリートが落ちそうな状態のところもありました。住民の関心は外壁補修に向きました。そこで2004年の1月に、『外断熱改修がいいのではないか』と管理組合に提案したのです」

大規模修繕を1〜2回スキップ

 佐藤さんは、仕事で公団団地やRC戸建ての外断熱工事に携わった経験を持つ。耐久性における外断熱の優位性は、熟知していた。

 コンクリートに亀裂が生じるのは太陽熱による温度変化が原因だ。日射を受けるコンクリートは膨張と伸縮をくり返し、徐々に劣化していく。冬場に零下5度、10度と下がる北海道では亀裂から入った水が凍結し、体積が膨張。モルタルを押し上げる。気温が上がると氷は溶ける。この反復で深刻な「凍害」が起きることも珍しくない。

 外断熱改修をすれば、外気温の変動から建物を守れる。外装を専用の塗料や建材で仕上げれば、少なくとも20年、うまくすれば30年、外壁の補修は必要ないと考えられる。だから12〜13年周期の大規模修繕を1回ないし2回、飛ばせることになる。

 大規模修繕の回数が減れば、積立資金を蓄えられる。高齢化が進んで、年金生活者が増えたマンションの管理組合にとっては福音であろう。従来の長期修繕計画を根底から覆す可能性を秘めている。

 ただし問題もある。外断熱改修工事にかかる費用である。

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著者プロフィール

山岡 淳一郎
(やまおか・じゅんいちろう)

山岡 淳一郎1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など幅広く執筆。福島県を中心に被災地と永田町、霞ヶ関を対比的に取材。4月初旬、『放射能を背負って 〜南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)を刊行予定。『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄 封じられた資源戦略』『国民皆保険が危ない』『原発と権力 戦後から辿る支配者の系譜』ほか著書多数。ブログはこちら。(写真:GOH FUJIMAKI)



このコラムについて

マンションに住んで幸せになろう

日本の「住まい」の大きな部分を占めるマンションは、天災、耐震偽装、施工不良、コミュニティの弱体化などの「リスク」をはらむ。大規模修繕や建て替えの「決断」にも迫られる。一方で、何事にも共同で立ち向かえるメリットも存在する。いたずらに危機感を煽っても先はひらけない。実際にどのような課題があるのか、それを乗り越え、「安全・安心・快適」に暮らすにはどうすればいいか。現場に立つ人々のルポを通して探る。「マンションに住んで幸せになる」道はなだらかではないが、必ず解決策はある。そして、住まいについて考えないことが最大のリスクなのだ。

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