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マー君、ダルビッシュを“育てた”ボーイズリーグ~『高校野球「裏」ビジネス』
軍司貞則著(評:柴田雄大)

ちくま新書、720円(税別)

  • 柴田 雄大

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2008年4月1日(火)

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高校野球「裏」ビジネス

高校野球「裏」ビジネス』軍司貞則著、ちくま新書、720円(税別)

 今年も春の選抜甲子園大会が始まった。夏の大会ほどではないが、それでも開会前から新聞各紙に大きく取り上げられ、すべての試合をNHKが全国中継する。しょせんは高校生の部活動なのに、野球だけは特別扱いで、それが毎年、当然のように受け入れられている。

 ちょうど1年前の2007年3月、西武ライオンズのスカウトが、将来有望な高校生とその関係者に裏金を渡していたことが発覚、大騒ぎになった。西武以外の球団でも「栄養費」などの名目で表に出ない資金が流れていたことや、才能ある球児を特待生として私立の高校が囲い込んでいる現実が次々明るみに出た。

 世間を騒がせた裏金問題、および特待生問題は、2007年10月に高野連の有識者会議が最終答申を出し、特待生は5人以下、採用にあたって一切の金品授受を禁じるなどの基本ルールを発表、一応の決着をみたことになっている。そして高校野球は何事もなかったかのように、美化された汗と涙の感動物語をつむぎ出す。

 しかしそれでいいのか、問題の本質は何も変わっていないのではないか、と声を上げたのが、本書の著者、ノンフィクション作家の軍司貞則氏だ。文部科学省の高校野球特待生制度問題小委員会のメンバーでもあった軍司氏は全国を歩き、高校野球の監督や、特待生問題の舞台となった「ボーイズリーグ」と呼ばれる少年野球の関係者にインタビューし、高校野球をめぐる「裏」ビジネスの実態を暴いていく。

 ボーイズリーグというのは、関西を中心に広まった小中学生の硬式野球リーグで、創設者はかつて球界のドンと称された鶴岡一人氏だ。中学生は学校の野球部に入ってもいいのだが、有力選手は硬球でプレーするボーイズリーグを選ぶ。

 ここで注目されると、甲子園を狙える強豪高校から特待生の誘いがかかる。近年甲子園を沸かせた日本ハムのダルビッシュ有、楽天の田中将大はいずれも関西のボーイズリーグから東北や北海道の高校に特待生として進学し、プロ野球選手になった。ほかにもソフトバンクの小久保裕紀、斉藤和巳、中日の立浪和義、メジャーに行った福留孝介、巨人の谷佳知などボーイズ出身のプロ選手は枚挙に暇がない。

 著者は取材で得たボーイズの実像を徐々に明かしていく。子供をボーイズに入れると、それなりにカネがかかる。月謝が3~5万円、バット、グラブなどの用具類はもちろん自前。ユニホーム、スパイクなどもチーム規定のものを購入しなければならない。遠征費用も親が負担し、応援に付いて行けばその費用もかかる。年間100万円ぐらいの資金はすぐに消えてしまうという。

 それでも将来性ありと認められれば、甲子園レベルの有名高校へ、入学金、授業料、寮費などすべて免除で入学できる。3年間の授業料、寮費、ユニフォームなど用具代を合計すれば300~400万円程度かかる。これが無料となったうえ、超有力選手には「食費」という名の小遣いまで支給されるから、ボーイズ時代の投資は完全に回収できる。

 高校側もいい選手が獲れて甲子園に出場できれば、知名度向上、受験者数増加など、計り知れないメリットがあるから、有力選手にはできるだけ好条件を提示する。他校との競合となればなおさらだ。ちなみにダルビッシュは当初、高知の明徳義塾高校へ進学するとみられていたが、最終的に東北高校を選んだという。

 ボーイズから高校野球へ進み、そこで活躍すれば大学にも同じような条件で進学できるし、社会人野球という道も拓ける。プロになろうものなら大成功だ。中学生の段階から野球エリートを養成する構図を、著者は「有名大学を目指し進学塾に通う子供と同じ」と看破する。親がカネをかける対象が勉強か野球かの違いがあるだけだ。

 高校球児を取り巻く「裏」ビジネスは、このボーイズが温床になっている。有力選手を獲得したい高校は、ブローカー(=ボーイズの関係者や監督、コーチなど)に裏金を渡す。その金額が数万円単位ならかわいいものだが、場合によっては百万円単位のカネが動くという。西武から裏金を受け取って問題になった早稲田大学の選手は、関西のボーイズ在籍中から西武と黒いつながりがあったというから、青田刈りもここまで来るとあきれてしまう。

 著者はノンフィクション作家らしい、無駄のない筆致でこうした高校野球をめぐる暗部にメスを入れていく。

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