「NBO新書レビュー」

混雑するのは、安すぎるからだ!〜『満員電車がなくなる日』
阿部等著(評:荻野進介)

角川SSC新書、760円(税別)

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2008年4月2日(水)

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満員電車がなくなる日 鉄道イノベーションが日本を救う

満員電車がなくなる日 鉄道イノベーションが日本を救う』阿部等著、角川SSC新書、760円(税別)

 鮨詰めの満員電車、いつ果てるともない道行き、こっちは長い間立ち詰め、カーブになる度、身体のバランスを取ろうと悪戦苦闘しているのに、狸寝入りかもしれないが、目の前にどかっと腰を下ろし、足りない睡眠を補っている人たちを見るにつけ「同じ料金を払って乗っているのにこの差はなんだ!」と悪態のひとつも吐きたくなったことはないでしょうか。

 そんな人に朗報となる本が出た。〈コストを掛ければ満員電車はなくせる〉というシンプルな主張が骨子だ。

 筆者の肩書きは交通コンサルタント。東大工学部の大学院を出てJR東日本に17年勤務、将来は鉄道経営を希望、という、ただの“鉄チャン”ではない。熱き「鉄道屋」である。

 著者はまず数々の書物を渉猟し、満員電車の歴史を丁寧に繙いていく。満員の度合いが最も激しかったのは昭和40年だったという。ワースト1が都下、青梅線の西立川→立川間で、混雑率が312%。身動きできない、手も動かせない状態で250%らしいから、300%を超えたとなると想像するだけで恐ろしい。

 当時、ワースト路線上位の混雑率は軒並み300%近かったが、40年以上経った現在も、その数字は200%前後と依然、高留まっている。ちなみに、平成18年における首都圏の満員電車ワースト3は、山手(上野→御徒町、混雑率216%)、京浜東北(上野→御徒町、同213%)、中央快速(中野→新宿、同208%)である。

 歴史を調べ、データをにらんで思索を続け、著者は次のような仮説に到達する。鉄道運賃は、明治の創業期以来、馬車などの既存の交通手段、あるいは後から出てきた車関連の諸費用に比べ、公共料金という名のもとに「なるべく安く」というプレッシャーにさらされ、高く設定することが社会的に許されなかった。それが満員電車を生ぜしめ、その程度は多少、緩和されつつも、完全撲滅まで至っていないのではないか、と。

〈鉄道業界も、運賃抑制の結果として、満員電車が生き続けてきたこと、雇用の削減を強制され、本来できるはずのサービス改善もできないことに、そろそろ気づいても良いのではないだろうか〉

 その逆が道路業界である、と著者は言う。行政と結託し、高速道路などの料金引き上げを次々に実行、それにより道路サービスを向上させる一方で、関係者の雇用も守ってきた。一方でこれは行き過ぎた面もあって、道路に使われている資金の4割が、自動車を使わない人も含めて集められた一般財源から供出されていることを著者は批判する。

山手線をすべて二階建てに。で、先立つものは…

 こうした仮説のもとで、著者は満員電車撲滅のため、運行方法、運賃、諸制度の3つのイノベーションを提案する。

 運行方法の革新策は頭の体操のようなもので、今までより、多くの本数の、あるいは大きなキャパシティの電車を走らせればよい。

 すぐに思いつくのは電車の運転間隔を縮めること。著者はそのために、車には馴染みが深いGPS(全地球測位システム)などを用い、既存の信号システムの改善を訴える。

 列車一両あたりの乗客数を増やしてもよい。著者が提案するのは、乗降口が上下で完全に分離した二階建て車両の導入であり、そのために、ホームも二階建てにするというから大掛かりだ。さらに複線を3車線に、さらに4車線に、といった線路本数の増設も有効な手のひとつだ。

 山手線の場合、現在は1時間に最大24本の運行本数を50本に倍増させることができ、しかもキャパシティを2倍にすれば輸送力は計4倍に増えるという。こうなると明らかに混雑は解消される。一番込んでいる時でも悠々と新聞が広げられるようになるかもしれない。

 といっても、先立つものはお金である。満員電車をなくすことができても、乗客の数と料金体系が同じなら、収益は上がらず投資回収ができない。そこで今までの低運賃・低サービスをよしとせず、払う価値のある高サービスを実現し、それに応じた運賃の値上げもすべきだ、と主張する。

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著者プロフィール

荻野 進介(おぎの・しんすけ)

1966年埼玉県生まれ。1989年、PR会社の知性アイデアセンター入社。2001年より、リクルートワークス研究所で人事経営誌『Works』の編集業務に携わる。2008年より、編集業務と人事コンサルティングを行うニッチモに所属。著書に『サバイバル副業術』(ソフトバンク新書)、『ダブルキャリア』(共著、NHK生活人新書)、『サラサラの組織』(共著、ダイヤモンド社)がある。

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