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家庭のために、ひとりになりたい~『家に帰らない男たち』
松井計著(評:朝山実)

扶桑社新書、680円(税別)

2008年4月3日(木)

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評者の読了時間2時間30分

家に帰らない男たち

家に帰らない男たち』松井計著、扶桑社新書、680円(税別)

 カプセルホテルに漫画喫茶、サウナなどを泊まり歩いていると聞くと「ネットカフェ難民」という言葉が頭に浮かぶ。けれども、ここに登場する男性たちは定職についているし、帰る家もある。

 家はあるのに帰ろうとはしない男たちが増えているとの情報から著者のルポは始まる。

 7年前、架空戦記が専門の小説家だった著者は収入が途絶え、公団住宅を強制退去させられた経験がある。住む家を失い、妻子ともバラバラになった。もちろん望まぬ事態だった。

 深夜の東京を歩き、意地でも路上でだけは眠るまいとファミレスで一夜を明かす。どう見られるか。他人の目を意識し、転落することに抗う日々を克明に綴った『ホームレス作家』(幻冬舎)が一躍ベストセラーとなり、起死回生、再び帰る家を得た。そんな著者だから尚更のこと、本書に登場する6人の男性たちは不可解な存在に思えたのだろう。

〈あの頃──私は、一刻も早く、帰ることのできる家を見つけたい、とばかり考えていた。帰るべき家がないことが、最大の苦痛であり、住居を回復することが、人生のメインテーマだった〉

 家と家庭の回復を求めた著者が興味を抱いたのは、帰らない理由であり、事情だ。

 サウナやネットカフェを泊まり歩く姿は同じでも、著者と登場する6人とでは、背景を異にする。ギャップ。溝を知るべく対話する。詰問は避け、淡々と問い、耳を傾ける。間合いが独特の面白みを醸している。

 東京・新橋にある広告代理店に勤務する44歳の山村さんは、神奈川県郊外の家に帰るのは週に一度か二度。片道1時間半、最寄り駅からの終バスは10時。タクシー乗り場もない。そんな通勤がきつくて、無理して帰るよりもとサウナに泊まりはじめた。

 自分は「帰らない男」ではない、「帰れない男」なのだと山村さんは事情を説明する。

 3年前、10年連れ添った奥さんと離婚が成立。子供二人を連れて奥さんが出ていった後の一戸建ての家には、帰らなければいけない理由もなくなった。

普通の男がはまる、仕事と家庭のうっすらとした溝

 思い出の詰まった広い家は淋しい。帰りたくなくなる気持ちはわかる。著者はひとり合点する。

 だが、山村さんが帰宅しなくなったのは、新婚間もない頃からのこと。当時、転職したばかりで仕事は忙しく「帰りたくても帰れない」状態だったという。会社との中継ポイントに安アパートを借り、週末は自宅に帰るという生活を選んだ。かわりに週末は心身ともにリフレッシュ、家族サービスに努め、家族関係は良好と思い込んでいた。

 それゆえに、離婚を切り出されたときは信じられなかったらしい。家に帰らなかったことが「家庭を顧みない夫」である理由に挙げられていたからだ。

 なんのために頑張ってきたのか。山村さんの心中に、こんなにも尽くしてきたじゃないかという思いが勝っても不思議ではない。

 通勤に無理のある家を選んだのは、別れた奥さんだ。子供の教育を考えてのこと。それに山村さんも同意した。働き盛りで精をだすほどに地位も上がり、当時は仕事が面白くて家庭のことは二の次になっていたのかもしれない。

 結果、徐々に家族と山村さんの間にひび割れが起きていたことに彼は気付いていなかった。週末の円満な家族の風景は、妻や子供たちがホストとしてサービスして合わせていたから。そんな疑問を抱かぬほどに、彼の重心は平日の仕事に傾いていた。……そんなことをつい読者として考えてしまった。

 ルポとしては全体的にクライマックスのない小説みたいで、これといったドラマ性には欠ける。しかし、それでもというか、だからこそというか、話しぶりや些細な語りのディテールから、仕事本位の男と「家庭」との溝がもたらす悲喜劇がうっすらと窺い知れる。

 近況として、山村さんは最近息子が母親の家でうまくいっておらず、一緒に暮らしたいと言ってきた。そんなことを著者に嬉しげに話し、亡くなった父親がいなせな鳶の棟梁だったことなど、身の上話を打ち明ける。まったくもって平凡である。エピソードの一つ一つは、山村さんがフツーの人であることを物語るとともに、ちょっぴりハートウォーミングだ。

東京で「ビッグになりたい」若者

 本書のなかで異彩を放つのは、福岡から上京し半年になる22歳の種村さん。登場する6人中、唯一の若者だ。彼には帰る郷里がある。しかし、東京に部屋がない。日雇いのバイトをしながらネット喫茶を泊まり歩いている。

 「君は何がやりたいと思って、上京してきたの?」と著者が訊けば、「僕は、東京でビッグになりたいんです」と答えている。

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