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心も体も壊れてから、申請にいらっしゃい~『生活保護VSワーキングプア』
大山典宏著(評:三浦天紗子)

PHP新書、720円(税別)

  • 三浦 天紗子

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2008年4月4日(金)

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生活保護VSワーキングプア 若者に広がる貧困

生活保護VSワーキングプア 若者に広がる貧困』大山典宏著、PHP新書、720円(税別)

 2007年7月、北九州市小倉北区で、生活保護を打ち切られた男性が餓死するという事件が起きた。「おにぎりが食べたい」「生活困窮者ははよ死ねということか」などと日記に書き残して死んだ男性は、同年4月に来所した際、生活保護辞退届を出していたのだが、その際に不当な自立指導があったのではないかと行政の対応が疑問視されている。

 2007年11月には、北海道滝川市で生活保護不正受給詐欺事件があった。元暴力団員の夫とその妻が、生活保護受給者の通院時に支給されるタクシー料金の補助制度を悪用。およそ1年半で、2億3000万円を超える不正受給を受けていた。

 あなたの記憶にも残っているであろう上記のニュースは、生活保護をめぐる問題を浮き彫りにした、極端な二例である。前者は福祉事務所が申請書受理のハードルを高くしている「水際作戦」の、後者は受給リテラシーの高い人たちによる「不正受給」の、「負」の部分そのものだ。

 こうした事件を耳にすると、市民感情として湧いてくるのは、「ここまで切羽詰まっていても生活保護を受けるのは難しいのか」という不安や、「役所は困っている人間を助けようともしない」という不信感、あるいは「どうしてもっときちんと調査をしないのか」「生活保護を食い物にするなんて許せない」という怒りではないかと思う。

 だが、そうやって「水際作戦」や「不正受給」をバッシングするだけでは、生活保護という制度が抱えた課題は解決できない。それどころか、ワーキングプアやニートの問題を放置したままでいれば、ずるずると彼らを生活保護対象者として抱え込むことになる。事と次第では10兆円以上の対策費用が必要となる可能性も否めないと本書では試算している。

 では、その悪夢のシナリオを回避するにはどうするか。これから行政が目指すべき新しい支援のかたちを提案したのが本書である。

 著者は現在、児童相談所に勤務しながら、ボランティア・ウェブサイト「生活保護110番」を運営する公務員。市役所の生活保護ケースワーカーとしてのキャリアも持ち、これまでに同サイトを通じて3500件以上の相談に応じてきた生活保護の専門家だ。その現場目線から、行政の実態やそれにまつわる報道の問題、申請者の本音、ケースワーカーの苦悩などを多角的に掬い上げ、ワーキングプアと生活保護との相関関係を明らかにしていく。

北九州方式は“闇”か?

 北九州市では、生活保護申請に来た男性が門前払いされ、孤独死した事件が他に二例ある。“闇の北九州方式”は、瞬く間に全国区となってしまったが、専門家というか、生活保護の実務家から見れば、これは「当然の対応」の範疇で、一概に“血も涙もない行政”とは言えないらしい。

 事実、北九州市は〈窓口に面接専任の職員を配置して体制を強化したこと、暴力団受給者に毅然とした対応を取り自立指導を強化したことなどにより、保護率を低く抑えることができた〉。厚労省の監査で、保護の適正実施をした自治体として高く評価されている。

 その一方で、日本弁護士連合会(日弁連)が行った電話相談では、生活保護の拒否対応のうち66%に違法の可能性があるという調査結果が出ている。だが、現場の実態をよく知るからこそ、このデータに驚いたと著者は語っている。

 法律家が持ち出す生活保護法から見れば、申請は国民の権利であり、申請をさせない「水際作戦」自体が批判されるべきこととなる。しかし、ケースワーカーから見れば、申請においては面接相談をし、親族に頼れないか、少しでも働けないかなど、相談者が自分でやるべき努力をしているかどうかの確認なしに受理するわけにはいかない。生活保護の適正な実施には「水際作戦」は不可欠という認識なのである。

 たとえば、著者は「次のケースで、生活保護の利用は可能だと思うか」と問いかける。

 仕事のストレスからうつを患い退職した34歳の女性。家族とは不和で、現在は恋人と同棲中だ。しかし、彼は日雇い労働者のため生活は苦しい。彼女はうつのせいで、何回か再就職にトライするが長続きせず、家事も彼に頼りっぱなしだ。女性も彼も家族からの経済的援助は難しい状態。結婚の予定はないので、ひとりで生活保護申請をしたいと言う。

 彼女の生活苦の状況に対し、「病気なのだから生活保護されて然り」と思う人もいるだろうし、「若いのだからがんばれば働けるはず」と自己責任論で考える人もいるだろう。

 実は生活保護の現場でも同様の対立が起きている。生存権の保証が何よりも優先されるべきという立場を取れば受給は「イエス」で、生活保護の運用や慣例という実務的立場で見れば「ノー」となる。

 著者によれば、この二重基準ともいえる状況が、生活保護行政をいっそう難しくしているという。

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