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ぼけてなお、幸せに生きるために~『「痴呆老人」は何を見ているか』
大井玄著(評:澁川祐子)

新潮新書、700円(税別)

  • 澁川 祐子

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2008年4月7日(月)

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評者の読了時間4時間30分

「痴呆老人」は何を見ているか

「痴呆老人」は何を見ているか』大井玄著、新潮新書、700円(税別)

 高齢化社会が問題となって久しいが、書店の棚を眺めていると、いよいよ事態が深刻化してきたなと思う。ここんとこ、「老」の文字がついた本がさかんに目につくようになったからだ。老後の生き方指南書はもちろん、住まいや遺言の残し方などハウツーものも多い。そうした本のなかから、『おひとりさまの老後』(上野千鶴子著、法研)といったベストセラーも生まれている。

 第一次ベビーブーム(1947年~1949年)の世代が60代に差しかかり、高齢者(65歳以上)が増加の一途をたどる日本の社会。そこには、「老いていく自分」に対する不安が渦巻いている。だからこそ、「老後をいかに過ごすか」を説く本が次々と出版されているのだろう。

 年とともに体力、気力が失われていくのを実感しつつ、もしも病気になったら、「ぼけ」てしまったら、と不安ははてしなく浮かぶ。だが、病気も「ぼけ」もいくら防ごうと思っても、完璧に防げることは決してない。

老いを直視すると、うつになる世界

 なったらなったときさ、と開き直れればいいのだが、それにしてもいまの社会には、「老い」に対するネガティブイメージが強すぎる。介護問題、年金問題、孤独死──「老いてなお幸福」という一般のモデルがあまりにも少ないのだ。

 そんなことをつらつらと考えているところに、この刺激的な題名の本に出会った。著者は、終末医療に長年携わってきた医師である。

 本書の序盤では、なぜ著者がこの道に入ったかといういきさつが語られる。アメリカでの医療生活を終え帰国、アルバイトで長野県佐久市の「ぼけ老人・寝たきり老人」の宅診に関わるようになる。そこで著者が見たものは、認知症の老人たちの孤独な姿だった。そして、著者は宅診を終えるたびに、急性の抑うつ反応を起こしている自分を見い出す。

〈今にして思うと、それは老いという衰えの過程を直視することによって生ずる、抑えようのない恐怖でした〉

 以後、著者は「先生にきてもらって調子がよくなった」という患者の存在によって救われ、「痴呆老人」の心象世界へと深く分け入っていく(現在「痴呆」の代わりに「認知症」の語が使われるが、著者はあえて「痴呆」の言葉を残している)。その真摯な語り口は、読む者の胸を打つ。

 そして、この本が“「痴呆」のメカニズムを解明します”というただの医療書ではないことがわかってくる。これは、「痴呆」という生のありかたを通して、著者自身が「生きるために必要なもの」を模索した産物なのだ、と。

知力ではなく「つながり」の低下が痴呆を生む

 「痴呆老人」の世界観を手探りするなかで、著者がたどりついたのは「つながり」というキーワードだ。

 本書には、著者が東京都杉並区で行った調査について、その驚くべきデータが記されている。区内に住む「ぼけ老人」(妄想、幻覚、夜間せん妄症状など異常行動のある老人のこと)と「正常老人」の知力の低下について調べたところ、

〈「ぼけ老人」の約二〇%は正常か軽度の知力低下があるだけで、大部分の方は「うつ状態」と思われました。逆に「正常老人」の一〇%近くで、中程度から重度の知力低下が見られた〉

 という結果が出た。それを受けて著者は、

〈「ぼけ老人」は老人自身の問題というより、周囲との関係による場合が多いようです。意地悪な人間関係の下では「ぼけ老人」は早々に発生するが、温かく寛容な人間関係では、知力が相当低下しても「ぼけ」とは認知されにくくなる〉

 と結ぶ。「ぼけ」は知力低下ではなく、周囲の人々とうまく「つながり」を保つことができない不安やストレスによって引き起こる「うつ状態」が表面化したものだというのだ。

 では、周囲との「つながり」によって左右される「自己」とはいったい何なのか──後半に入ってくると、医療という枠を超え、哲学的な問いが発せられる。

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