「デキルヤツノ条件」

6:クレーム処理はできますか

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2008年4月11日(金)

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 ヤマト運輸という運送会社がある。

 クロネコヤマトでお馴染みの、日本全国どこへでも、ときには海外へだって指定した時間どおりにきっちり荷物を運んでくれる大きくて立派な会社である。少し前のことだが、この立派な運送会社と私のあいだで、立て続けに悶着があった。

 最初は“メール便”の配達についてのいざこざだ。

 近ごろはメール便で雑誌を送ってくる出版社も多く、従来の宅配便と比べ、冊子や小物を送るぶんには手軽で費用も安いということは知っていたが、今回の問題が起きて、私はこの“サービス”がとんでもない代物だということに初めて気づいた。ヤマトの諸君、どうか消費者の気持ちを聞き入れてくれたまえ。

 少し話を遡りますよ。クロネコヤマトが登場するまでの前段が必要なので。

 久しぶりに友人と会ったとき、雑談の中である小説の話題になった。学生の時分に読んだ小説で、私はそれを紛失していた。と思う。壁の二面に張りついた本箱の奧か、その本箱にも入りきらなくなって段ボール詰めにしたどれかに隠れているのかもしれないが、いったん箱詰めにしてしまうと探し出すのはとても大変だ。だから見つからない本は、気持ちを整理するうえで紛失したことにしている。

 のだが、気になるとどうしてもその小説が読みたくなる。そういう性分だ。かといって、段ボールを一つひとつ開けてまで調べるほどの几帳面さは持ち合わせていない。

 探し物にかぎって、たいがい見つからないものだからだ。探すのをやめたとき、見つかることもよくある話だと井上陽水は歌っているが、探すのをやめるときはもう読みたいという気持ちも失せているのでそれでは意味がない。

 そこで、古本屋さんを見かけるたびに覗いてはみたが、あいにくとその小説は絶版になっていて、どこの古本屋さんで探しても見つからなかった。もちろん大型書店にもない。

 その小説を友人が持っていた。持つべきものは読書好きの友である。古い本だし、彼はもう読まないだろうから送ってくれるという。持つべきものは読書好きで仲間思いの友である。近いうちに送るよ、と言って彼とは別れた。

 それから一週間もしないうちのことだ。友人から電話があった。

 「お前さ、ちょっと礼儀に欠けやしないか」

 いきなり窘められた。口調は憤っていて、最初からけんか腰なのである。誰からも怒られ馴れている私だが、彼を怒らせるようなことをした覚えはない。だから訊いた。何で怒ってるの?

 「あのな、俺はたしかに本はやると言ったよ。でもさ、届いたんなら届いたって連絡くらい寄越すのが筋じゃないか」

 だが、私には、はて、何のことかわからない。

 そこでよくよく訊いてみると、彼は私と別れた翌日には、私が読みたがっていた小説を送ったというのだ。持つべきものは読書好きで仲間思いで律儀で礼節を重んじる友だ。この友人が利用したのが、クロネコヤマトのメール便です。

 「いや、届いてないよ。不在通知だって入ってなかったし」
 「そんなことないだろう、送ったんだから」

 そこで、注文書の控えにある番号を教えてもらい、私はクロネコヤマトに確認の電話を入れた。応対したのは女性のオペレーターだ。私は事情を告げる。あのぉ、知り合いが送ったと言っている荷物が届いてないんですが。

 オペレーターの応対は悪くなかった。
 すぐに調べると言って電話を切ると、数分後にまたかかってきた。さすがはテレビコマーシャルでもお馴染みの、日本全国どこへでも、ときには海外へだって指定した時間どおりにきっちり荷物を運んでくれる大きくて立派な会社だ。だが、オペレーターが確認したところ、荷物はたしかに配達しているという。

 「ちょっと待って。どういう調べ方をしたの?」
 「はい、ドライバーに訊いてみたのですが、本人は配達しているはずだと」
 「ちょっと待って。ぼくは受け取ってないんだよ。ドライバーが配達したと言えば配達したことになるの?」

 そんなやり取りがいくつかあって、オペレーターの女性は配送センターの責任者に代わると言った。少し待たされて出てきたのは男性で、声の感じからすると私よりはいくぶん年長のように感じられる。そこでまた同じことを繰り返すのだが、埒が明かないので直接ドライバーに確認させてくれと頼んだ。

 「どうぞ……、でも、本人は間違いなく配達したと言ってるんですがね」

 ドライバーの携帯電話の番号を訊き、本人に電話を入れる。

 そのドライバーの返答は、配送センターの責任者とはちょっとニュアンスが違っていて、配達したと“思う”というものだった。そして、いつ、何時ごろ配達したかについては“覚えていない”という。彼にすれば1日に100件以上の荷物を配達しているわけだし、それが4、5日前なら記憶があやふやになるのもわからないではない。

 私の住むマンションは、一階のエントランスロビーに郵便ポストが設置されている。

 もしかしたら、左右両隣かフロアーを間違えて投函した可能性だって考えられる。クロネコヤマトの“メール便”は、ポストに投函すれば配達は済んだことになり、受取人受領のサインなり判子は求めないのだ。だから確認のしようがないらしい。

 「こういうときは、どうしたらいいんですか」

 私は再び配送センターの責任者という人を呼び出して訊ねた。

 「こちらとしては、配送料の80円をお返しするしかできないんですが」
 「ちょっと待って。ねえ、おたくはそれで解決する気なの?」
 「と言われても、そういう規約になってますから」

 発注票にも書いてあるとか、そういうことを言われたように思う。

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著者プロフィール

降旗 学(ふりはた・まなぶ) 

ノンフィクションライター。1964年、新潟県生まれ。神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。96年、第3回小学館ノンフィクション賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』『敵手』『松坂大輔 証明』他、剣崎学のペンネームで書いた『都銀暗黒回廊』など。
近著は『草野球をとことん楽しむ』(新潮新書)。 本ウェブ連載「長目飛耳」をまとめた『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)



このコラムについて

デキルヤツノ条件

 誰にでも、周囲に一目置かれ、デキるヤツと思われたいという願望はある。仕事がデキる、部下にも人望がある、仲間にも信頼される、ユーモアのセンスがあって異性にもモテる、金離れもいい、常に自分を磨いている、同性から見ても魅力的だ、セクシー、ダンディ、クール、エトセトラエトセトラ――、数え上げればきりがない。「長目飛耳」の降旗学が、どういうヤツをデキると言うのか、“デキるヤツの条件”を世相と照らしあわせながら探ります。なお、お読みいただくに当たり筆者からひとつお断りがございます。 こちらの文末をご覧下さい

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