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雇わない、雇われない、後悔はない~『ひとりビジネス』
大宮知信著(評:朝山実)

平凡社新書、760円(税別)

2008年4月22日(火)

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ひとりビジネス 転身・独立で幸せをつかむ

ひとりビジネス 転身・独立で幸せをつかむ』大宮知信著、平凡社新書、760円(税別)

 「起業」についての類書はたくさんあるが、本書がすこしばかり異なっているのは、脂ぎってないというか、上昇意欲の薄さにある。

 取り上げられている事例は、20件。ひとりでできるビジネスとあって、スキマを見つけた変わったものが多い。

 バストサイズアップのためのシリコンパッドを専門に扱うネットショップ(大手ディスカウント・ストアのバイヤーから転職)や、定年退職後に始めた墓参りの代行サービス、子育て中のママさんによる出張ペット火葬、ホンモノの僧侶がランチタイムに代官山で販売する手作りの玄米精進料理弁当。あるいは、美しくなりたい男性のための女装サロンを経営する女性オーナー。ほかにも、ウェディングドレスのネット販売や、似合う服の色を教えるカラー診断、コーチングのプロなど、これから流行りそうなものまで職種は様々だ。

 儲かっている人もいれば、一年後には店をたたんでいるかもしれない先行き不透明な人もいる。一見バラバラなのだが、著者はこんなふうに全体をくくっている。

〈「ひとりビジネス」は会社員時代に身につけたスキルや知識、経験がビジネスの元になる。家族やアルバイトの助けを借りることがあっても、自分がいないと商売が成り立たない事業である。今回取材対象としたのはそうした「雇わない、雇われない」起業家、新しい発想で商品、サービスを提供している超スモールビジネスの人たちである〉

 全員が同じ考えだというわけでも、もちろんない。似通っているのは、ここから大きな会社にしてやろうだとか、フランチャイズ化して一儲けしてやろうだとかの「向上心」に乏しいことだ。

 たとえば、福島県で「にこにこバラ園」を営む伊丹雅昭さん(47歳)。外資系の酸素メーカーの社員だったが、1993年から半年間、デンマークでの本社勤務を命ぜられ、そこでの生活が転機となったという。

「向こうの人は、車やブランド品などの贅沢品は持っていなくても生活を楽しみゆったりと生きている。落ち着いたデンマーク人たちの生活にかなりインパクトを受けました。妻も物欲が消えたって言っていましたね」

 帰国後、千葉の新興住宅地に住んでいた伊丹さんはさっそく田舎暮らしの計画を立てはじめる。食べていくための仕事として浮かんだのが農業だ。しかし、そんなに楽なものでもないし、なにより広い農地が必要だ。小さな土地でやれるものはないものか。そこで選んだのが、花卉栽培。それも、バラに特化したものだった。

 4年後、妻の実家がある福島で、800坪のビニールハウスでバラづくりを始めた。

年収は一気に六分の一に

 いきなり外国産の安いバラとの競争激化とバブル崩壊後の景気悪化が重なり、手痛い打撃を受ける。40軒あった県内のバラ農家は、5軒に減少した。でも、伊丹さんはバラづくりをやめなかった。いや、やめられなかった。退職金を注ぎ込んでしまっていたからだ。

 伊丹さんが、苦境を乗り越えることができたのは、経験が浅いぶん、販路を市場一本から個人客相手のネット通販に切り替える発想の転換が可能だったたこと、そのために、新鮮で日持ちのするバラにする工夫を施したことにある。

 「新鮮さと日持ちがいい」のが評判を呼び、注文が増え、いまでは9割が個人客だという。起業もののルポとしては、通販が軌道に乗るまでの苦労話を期待するところだが、顧客の販売記録を「カルテ」にして管理しているという、あっさりとした記述で終えられている。読者として、そこのところ突っ込んで聞き出してよと思ったりしないではない。

 しかし、著者の狙いは安易な成功の秘訣集めではないらしい。小手先のハウツーよりも、未知の世界に一歩を踏み出したフツウの人たちの活力の根っこを描きとろうとする。そこに主眼が置かれている。

〈福島へきてから子供が二人増え、現在四人。気になる年収は「いま手取り二〇〇万円ぐらいじゃないか」とこともなげに言う。サラリーマン時代は夫婦合わせ年収一二〇〇万円だったから六分の一にダウンしたことになる〉

 伊丹さん一家は田舎暮らしだけに出費がすくない。年収200万円は償却費や経費を引いた額で、収支はそれなりになんとかなっている。休みがないなど大変ではあるが、よかったのは子供のアレルギーが治ったことだと明るく語る。その腕には、バラのトゲで引っ掻いた無数の真っ赤な傷がある。楽と大変は一対。暮らしの張りは、添えられた写真から伝わってくる。

 会社に所属していると、年齢とともに管理職となって現場の一線から外れていくことが多いが、ここで紹介されているのは、自分が現場にいて身体を動かす仕事を好んだ人たちだ。

 よくある成功集の本であれば、こぼれ落ちそうな人もいる。太宰治を中心に集めた、三鷹の古本カフェの「フォスフォレッセンス」店主の駄場みゆきさん(前職は京都の大学生協の店長)。図書館が近くにあることが決め手となった立地は、駅から徒歩30分。小さいながらも、道に面した大きなガラス窓が目を惹く店構えだ。

 駄場さんは、子供の目線の高さに絵本などを置いて、親子がそれをきっかけに会話をしている風景を中から目にすると、やっていてよかったと思うという。やりがいの一方で、「三年はもたないだろう」と思っていたとも。それが5年保った。

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