• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「同人誌」の思い出話と当事者性

  • 小橋 昭彦

バックナンバー

2008年4月22日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

ムラからの手紙

 前回(「ぼくは、給食を食べたことがありません」)、お弁当と給食の例をひきつつ「当事者意識」の欠如について考えました。あなたからの返信を読んで、その後またいくつかのことを考えていました。もうしばらく、この話題を続けましょう。

 あなたからの返信には、オタク文化における当事者性について書かれていました。同人誌マーケットをひきながら、与えられるだけではなく創造も生むオタク文化は、当事者性の回復につながっているという主旨でしたね。(ただし最近では、オタクたちはすでに当事者性を失ったという意見--新潮新書『オタクはすでに死んでいる』岡田斗司夫著--もあるようですね)。

 なるほど、と思いました。と同時に、なんというのかな、少し違和感を抱く部分もありました。「オタク」という言葉が生まれたのは今から四半世紀ほど前ですが、当時オタク文化に片脚をかけていたぼくとしては、あの頃抱いていた当事者性と、前回触れた当事者性は、ちょっと異質なように感じるのです。まずは思い出話を兼ねながら、その異質なところについて説明させてください。

「おたく」という二人称は“救い”だった

 当時ぼくは、小説と漫画を掲載する同人誌を主宰していました。高校時代の友人と始めた会で、最盛期で50名ほどの会員数でした。それら同人から集まった作品を、年1~2回冊子にまとめ、その間に何度か会員向け情報誌を発行する、さらに毎月1度、例会を開催し、読書会などを行っていました。

 オタクという言葉に関して思い出すのは、当時、二人称に困っていたという事実です。SFファンの大会やコミック・マーケットのような会に参加するときはもちろん、毎月の例会にも、初対面の人と顔をあわすことが珍しくありません。そんなとき相手をどう呼ぶか、悩んでいたのです。

 「あなた」とか「きみ」というのは日常的に使う二人称じゃないし、といって名字で呼ぶのは、なんていうのでしょう、その人の全人格を相手にしているようで(あるいはいきなり相手の懐に踏み込んでいるようで)、重いんですね。

 特定分野の趣味を共有するために集まったのだから、まずはその分野に絞って相手と接したい。学校のクラスだと、趣味など関係なく、人と人が出会う場ですよね、その後も関係が続くことが前提となっている。そういうところでは名字で呼びやすいのですが、特定の趣味のもとに(特にファン大会のように一時的に)集まっている場では、プロフィール全部を背負った固有名では呼びづらいわけです。

 そんなときに呼び合うための呼称として、「おたく」っていうのは、当時ずいぶん腑に落ちた感じがしました。大げさな言い方かもしれませんが、二人称問題に対する救いのようなというか。だって「おたく」というのは、相手の人格ではなく、相手が築いた空間を指す言葉ですからね、「おたくのカーテンの色はセンスいいですね」って言い合うように、軽く使えるわけです。

 今、書いていて気づきましたが、これはあるいは、団地の主婦が語り合う感覚と似ていたかもしれませんね。だって、団地の主婦って、転勤も多いし、相手のプライバシーにはあまり踏み込みたくない感覚がある。相手の個人というより、「○○さんの奥さん」であったり、「向かいの奥さん」であったりする。だから、互いの家のインテリアを語るにも、「あなたのセンスがいい」というより、個人の選択眼を抜きにして、純粋に目に映る現象をとりあげて「お宅のセンス」って言い合う。そんな感覚と似ていたかな。趣味で築いた空間についてしゃべりあうときに、「おたく」って便利な用語です。

「おたく」「オタク」の中の当事者性

 それで。こうした「自分の宅」と「相手の宅」を語り合う感覚は、どちらかっていうと、相手と直接切り結ばない、表面的な付き合いだった気がするわけです。もちろん、会合を重ねるうちに気心が知れて親しい友人になっていくこともある(同人間で結婚した仲間もいました)、でも、出会った当初は「拙宅」と「御宅」との塀みたいなものは意識している。相手の敷地には踏み込みません、という暗黙の了解。そういう感覚からすると、そこに芽生える「当事者性」ってなんだろうと、考えてしまうのです。

 もしかすると、言葉の定義部分で、ずれているかもしれません。

コメント1

「ムラからの手紙」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本全体として若い世代にもっと所得の分配をしていくべきだと思う。

川野 幸夫 ヤオコー 会長