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意外なほど同じで、情けない『大正時代の身の上相談』
~今も昔も自分は棚上げ

2008年4月23日(水)

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大正時代の身の上相談

大正時代の身の上相談』カタログハウス編、ちくま文庫、700円(税抜き)

 春となり、ぽかぽか陽気で心地よくなるにつれ、憂鬱な悩みがある。

 何かというと、アリ。そう。黒い行列をなす、ありんこである。

 台所の床を這う連中を発見してからかれこれ何年にもなるが、もう大丈夫と油断しかかると、群れをなして床やら壁やらを行軍していらっしゃったりするのだ。

 わがもの顔。見つけ次第に殲滅、まめに進入経路を塞ぎ、一件落着と思いきや彼らはまた現れる。シンシュツキボツ。自分があのブッシュにでもなったかのような錯覚をおこさせるくらい、叩かれてもたたかれてもキッチンからリビング、仕事場にまで進入ポイントを拡大し続ける。敵ながらアッパレなゲリラぶりである。

 などと、すこしは余裕を抱けるようになったのは、インターネット様のおかげだ。

 アリ退治に苦慮し、ネット検索をすると、被害を訴える同輩が少なくないこと、撃退の具体策を詳細に綴ったものの多さに、ふっと心がやわらいだ。彼らが列を為すのは、先を行くものが残したあとを追う習性によるものらしいから、足跡を消さないといけないとか、マメ知識もふえた。おかげさまである。

 悩みというのは、自分だけが苦しんでいる、そう思い込んでいるうちはヒサンである。考えたくないなどと本書の表紙のイラストのように、頭をおさえ、耳を塞いでしまった格好のときがまさにそう。

 本書は大正時代、「読売新聞」に連載されたお悩み相談を再録したもので、当時の相談と新聞記者によるお答え、それに現代の女性編集者によるコメントが付加された三点セットの構成になっている。

 「身の上相談」というだけあって、読者から寄せられた相談事の多くは、進路選択から結婚生活にいたるまで、どれもが「私」の個的な悩みである。

 先妻に先立たれ、残された子供の養育の頼みにと再婚してみたものの、後妻は大病を患い、その役を果たせない。〈行く末など考えますとどうしてよいやら煩悶に耐えないのです。私のとるべき道を教えてください〉という男性からの相談。

 妻子ある男性と不倫してきたが、交際中のその男性から別の男との縁談話をもちかけられ……と胸のうちを打ち明ける女性。

 従姉に内緒でお金を貸していたが、その彼女が死んでしまったので、残された妹弟に返金を申し出たところ、とりあってくれない。どうしたらよいでしょうか、というもの。

 現代にも通じる悩みが多いなか、こんなものもある。

〈俺は処女を知らない。男と生まれた生きがいもない。処女を妾として置くから、公然と承知せよ〉と激怒する夫の相談は何かというと、妻が処女ではなかったことによる憤懣で、大きな子供までいるというのに、だまされたと離婚を迫る夫は一人や二人ではない。

 また、子供が産めない妻を離縁にするのは当たり前と、いまなら大ブーイングを浴びそうな相談にも、大正時代の新聞記者さんの「お答え」はこれを常識として受け入れている。

自分探しだっていっぱいあります

 まあ、今も昔もお悩み相談の常ではあろうが、相談者たちの、自分の器量は棚上げしてしまっての言いたい放題。性生活がうまくいっていないことを母親に相談するマザコン男性に出会っても、回答者は驚いたりしていないのを見ると、男のマザコンはなにも現代の特色でもないらしい。

 進路や仕事に関するものを抜粋してみると、こんなものがある。

〈私は酒もたばこも口にせず、それに童貞です。そのためか、子供子供した声が出ます。どうでしょうか。声楽家としてものになるでしょうか。ものになるとして仮定して、親切な音楽家のお世話をお受けしたいのですが、どなたか適当な方はございませんか。女中代わりでも、ある程度は務めます〉

 相談者は、21歳の青年である。童貞ウンヌンもおかしいが、子供子供した声が出るからといって、声楽家になれると早合点するのは、あまりに世間を知らなすぎる。あるいは、声楽家というものの地位は、ある程度の頑張りでなれるくらいの職業と理解されていたということなのか。

 奥ゆかしいんだか厚顔なんだか知れない相談者のビミョウな腰の低さ。扱い方を間違えれば逆ギレされかねない不気味さが漂うだけに、記者さんのお答えは〈単に美声を唯一の頼みに声楽家になろうとするのはいささか軽挙ではありませんか。いちおうご熟慮なさい〉といさめつつも、厄介を恐れてか大人な回答で距離をとろうとしている。

 悩み相談は「私」に焦点をあてたものだけに、相談者の個を越えた時代意識があからさまとなって吹き出している。自分のことしか見えてないと、いまどきの人たちを批判する世相談義は多いが、なぁに先輩諸氏だって五十歩百歩で、当時の大人たちからは、昨今は甘えた連中が増えたものだわいと見られていたにちがいない。

 別の21歳男性は、会社勤めを辞め、画家か文士になろうと思うのだけれど、親の怒る顔を想像しただけで、決心が鈍る。そもそも自分に才能があるものかが不安で〈私は本当に苦しんでいます。ああ、本当に苦しんでいます〉という。

 また、22歳の商店勤務の男性。偉人の成功談を読み耽り、成功を夢見たものの、コツコツやるのが不愉快であれこれと転職を繰り返し、〈私はどうしたらいいのでしょうか〉

 いい年をして自分探しで転職を繰り返したりする相談者の多かったのを見ると、たかだか60年、70年じゃ人間そんなに変わりゃしないというのがわかって勉強にもなる。

 頼りなさや甘えた感じには呆れるよりも、お間抜けな相談に出会うたび、奇妙な安堵さえ感じてしまうのはどうしたことか。

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