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素晴らしき哉、格差社会!~『港区ではベンツがカローラの6倍売れている』
清水草一著(評:後藤次美)

扶桑社新書、720円(税別)

  • 後藤 次美

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2008年4月25日(金)

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評者の読了時間2時間30分

 書名だけだったら、ン匹目のドジョウと思い、スルーしてしまう本だった。

 大金持ちが大勢住んでいる東京都港区なら、ベンツがカローラの6倍売れていたって不思議じゃない。そういった富裕層と地下鉄にも乗れないワーキングプア層を比べて、格差拡大を憂うだけの、お手軽格差社会本ではないの? 格差社会本がインフレ気味なだけに、そう誤解してもおかしくはない。

 ところが本の帯には〈格差社会は本当に不幸なのか?〉と挑発的なフレーズがある。その煽りに乗せられて読んでみたところ、本書のスタンスはいわゆる格差社会批判本とは、だいぶ異なっていた。

〈私には、格差の拡大は、自由の拡大の結果に思える〉

〈ぶっちゃけた話、日本は(正確には日本の都市部では)、犯罪を除けば、なにをやってもいい感じの社会になった。(中略)好きなように生きていいので、頑張る人はあらゆる方法で頑張っていい。頑張れない人は頑張らなくていい。だから格差が拡大しているんじゃないだろうか〉

 要するに、格差拡大とは、日本が「相当好きなように生きていい国」になったことの代償であり、〈格差は悪いこと「だけ」じゃないんじゃないか〉というのが、格差社会に対する著者のスタンスである。

 だが、それは一連の取材を終えてからのこと。モータージャーナリストとして知られる著者が取材を始めたのは、大反響を呼んだNHKスペシャル「ワーキングプア」にショックを受けたことがきっかけだ。ただ、ショックは受けたものの、「どうも実感がわかない」。

〈やっぱり苦しい人を実際に見てみないことには、話は進まないじゃないか。そういう人と、猛烈な金持ちとを比較して、その落差をあぶりだしてみよう〉

 と思い立ち、取材を始めたというから、著者の思惑通りにコトが進めば、この本もわんさと積まれた格差社会批判本の山に埋もれていたことだろう。

 本書の構成は、ベンツ格差、別荘格差、カード格差、外国人格差、フーゾク嬢格差、生活保護格差など、具体的なモノ、ヒト、コトに焦点を絞って、持てる者と持たざる者とを比較レポートするという体裁を取っている。

 で、取材結果はどうだったのか。

楽しそうなカード破綻者に出会う

 で、取材結果はどうだったのか。これが予想に反して、NHKスペシャルのような「絵になる貧困」に、なかなかお目にかかれない。「絵になる豊かさ」は、簡単に見つかるのに──。

 たとえば、カード格差では、カード破産者と「限度額なし」と言われるブラックカード保持者とを対置する。しかし、自己破産した人間から、どうもヒサンな香りがしない。

 とある女性は、10年前に自己破産したにもかかわらず、最近になってまたキャッシングを繰り返す日々を送っている。ズボラな性格のため、将来を不安に思う様子もない。

〈派遣で単純労働をしながら、狩猟採取生活をする南洋民族のように、その日その日をまったりと、それなりに楽しそうに生きている〉

 いまや、ネットで検索すれば、自己破産の手続きをしてくれる法律事務所はゴマンとある。自己破産は小さな産業になるぐらい、珍しいものではなくなっている。

 対して、ブラックカードの保持者であるヒルズ族。「絵になる豊かさ」はある。数千万、数億という額の買い物を平気でやってのける。でも、「南洋系の生活にただ身をゆだねている自己破産経験者」とは違って、飢餓や焦りが見て取れた。著者はその内実まで踏み込んでいないが、おそらく多くの成功者には、成功し続けるしか道がないからだろう。

 評者はどっちもゴメンだが、格差の両極を見ると、たしかに比較すること自体の意味がなくなっていく。それが著者の言わんとするところだ。

 同じことが、ベンツがバカスカ売れる東京都の港区と、軽自動車保有率が高い高知との比較でも言える。

コメント20件コメント/レビュー

2番目のコメントが素晴らしい???格差論争を誰が言い出したのかは知らないが、それに乗っかって再チャレンジを言い出して自爆した元総理を擁護する気にはなれませんね。格差論議を最大限に利用してきたのはむしろ自民党ではないですか?日本がいま直面しているのは、日本の中での格差ではありません。グローバル競争の中で沈み行くかどうか、国全体が夕張となるかどうかという「今そこにある危機」です。コップの中の格差を強調することによって得をしているのは、自民党政権によって自らの権益を確保した層だけだということに、いい加減気づくべきです。そしてそういう層には右も左も関係ないということも。(2008/05/02)

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2番目のコメントが素晴らしい???格差論争を誰が言い出したのかは知らないが、それに乗っかって再チャレンジを言い出して自爆した元総理を擁護する気にはなれませんね。格差論議を最大限に利用してきたのはむしろ自民党ではないですか?日本がいま直面しているのは、日本の中での格差ではありません。グローバル競争の中で沈み行くかどうか、国全体が夕張となるかどうかという「今そこにある危機」です。コップの中の格差を強調することによって得をしているのは、自民党政権によって自らの権益を確保した層だけだということに、いい加減気づくべきです。そしてそういう層には右も左も関係ないということも。(2008/05/02)

「○○に比べたらましだから、日本の格差はたいした事がない」という言説は格差問題の本質を全く無視した論議です。こういう考え方は、福祉の言葉で言えば「劣等処遇の原則」ですね。「より最悪な状況があるのだから、貧困にある人は最底辺にいなければならない」という考えが、貧困層の増加を食い止め、貧困層の硬直化を解消するという貧困解決の原則から遠く離れたものにしているということです。 経済において格差が生まれるシステムに競争が発生しやすいというのは正論ですが、再生産・再分配もなしに格差を硬直化させるというのは、逆に競争を阻害する要因でもあるということを忘れないで頂きたい。 一企業程度の経営の問題と、人間世界でカネが回っていることを理解する(逆に回らないということは不経済)という経済の問題を混同している方が多いようですね。(2008/04/30)

連合王国イギリスの格差から比べたら、日本の格差など無いに等しいと思います。女王を頂点とした貴族社会、世界の金融をリードするCityとトップエグゼクティブたち。ロシアやアラブのお金持ちの集まる市内の高級地。次から次にやってくる東欧や世界からの移民たち。日本のようにほぼ単一民族での格差などとっても小さく見えてしまいます。ロンドンで耳にする日本人や日本文化、国際的な役割を担う日本、お寿司に日本料理、漫画、秋葉原に、Kawaiiと叫ぶロンドンッ子。何から何まで今の世界の憧れの場所は日本だというのはどれだけの日本人が認識しているでしょうか。(2008/04/30)

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