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「『ハヤシケンジ』って誰ですか?」~『調べる技術・書く技術』
野村進著(評:朝山実)

講談社現代新書、740円(税別)

2008年5月7日(水)

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調べる技術・書く技術

調べる技術・書く技術』野村進著、講談社現代新書、740円(税別)

 先日、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」というドキュメンタリー番組で、洋上にてスケソウ鱈を加工する工場長を取り上げていた。

 巨大タンカーのような船全体が工場や寮になっていて、一度航海に出ると2カ月は海に出たまま。何十人もの新人の作業員をどの部署に配置するのかを決める面接から、タラコを品質と大きさによって10いくつにランク分けするライン作業の指導、かまぼこにするすり身の機械の調子の監督にいたるまでを統括するのが工場長、吉田憲一(52歳)さんの仕事だ。

 自宅で料理する際、なにげなく右腕の袖をまくりあげようと口で噛んだりするしぐさを男っぽいなぁとみていたら、隻腕であると紹介される。仕事に自信を得た30歳のとき、作業中に左腕をなくしたのだそうだ。

 隻腕では船の仕事は難しい。自在に動けないぶん、人に任せねばならない。ひとり率先してなんでもやってきてしまった人は、頼るということは不得手なものだ。思い通りに人が動いてくれない現実に、相当ストレスを感じていたにちがいない。

 たとえば、面接に要する時間は平均1~2分。吉田さんの質問はたった一つだ。

 どんな仕事をしてきたのか。答えそのものよりも、目は答え方を見ている。入室のときに、挨拶をするかしないか。船乗りのキャリアを語る男に、前にその船で働いていたならロバートは知っているかと吉田さんは尋ねる。

 「誰?」と男。「ロバート」。吉田さんは表情を変えない。

 このとき、じっと相手の目を凝視している。結果的に、男は目を逸らし、経歴を訂正した。

 だからといって不採用にするわけではない。人間性と仕事ができるかどうかは別もの。だから、適材適所に配置する。

 人事の評価のポイントは、「姿勢」だと断言した。裏表のある人間、嘘をついたりする「ずるい人間」は、経験や能力はあっても、責任ある部署には就かせない。トラブルが発生したときの咄嗟の対処の仕方に、個人の資質が表れる。任せたばっかりに、大きな損失をもたらしかねないからだ。

 面接は「人」を見極めるための真剣勝負。考え事をするときには、あけた口を歪めるのが吉田さんの癖らしい。1~2分間、眼はプーマのように相手を捉えていた。数日後に再放送を見直したときでさえ、一瞬一瞬にぞくぞくし、身を乗り出してしまっていた。どんな仕事であれ、従事する人間が「プロ」であることを発揮する現場ほど魅力的なものはない。

25年のノウハウを一冊に

 さて、本書は、『千年、働いてきました』(角川oneテーマ21)などのベストセラーを持ち、いまも現役のノンフィクション・ライターとして活躍する著者が、自らの仕事術について明かしたものだ。

 作家やライターによる文章術の類は少なくないが、仕事を始めて四半世紀になる著者があえてこの時期に仕事の仕方の本を書いたのには二つのわけがあるという。

 一つは、自分なりの方法論が固まってきたから。自身にとっての整理の意味があるのだろう。

 もう一つは、ライターにとって、かつてはあたりまえだったことがそうではなくなってきたから。インタビューをする側ばかりではなく、受ける機会が増えるにつれ、仕事の常識が崩れかかっていることに危惧を抱くようになった。

 遅刻をする。資料読みをしてきた形跡がない。貸した資料を返却しない。発言していない事柄を会話体で記す。すでに公表されている事実を自分が発見したかのように書く……。

 ライターとしての基礎ができていないばかりか、社会人としての礼儀すら欠いている。そうしたイロハを教える本は、著者がライターを始めた1970年代から80年代であれば容易に手に入ったものだし、憧れのライターがどのようにして仕事をしているのか、勉強のために何冊もの本を読んだりしたものだ。しかし、これらの基本書はいまでは入手しづらくなっている。

 これでは、バッティングフォームも知らずに打席にのぞむようなもの。ライターの基本をこの仕事に関わろうとする人たちに伝えたい。その意味で、著者の独創はほとんどないと断っている。

 好感を抱いたのは、著者がライターを志しながらもまだプロとなる前の「苦い思い出」だ。

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