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『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』海部美知著、アスキー新書、724円(税別)
2006年11月、掃除機で有名なダイソンが、ジェットタオルを製品化したらしい。そう、日本のオフィスビルや商業施設のトイレで見かけるアレだ。ダイソンは「12秒で乾く高性能さ」を謳っているが、日本ではあのハンドドライヤーは10年以上前からある気がするし、いまや国産では3〜4秒で乾かせる製品もあるほどだ。
2005年にマドンナが12年ぶりに再来日した際、「日本の温かいトイレシートが懐かしかった」と発言したように、暖房機能付きのシャワートイレがここまで一般に普及しているのはおそらく日本だけ。テレビ機能付き携帯電話を始めとするワンセグは、アメリカではまだ有料で、サービスがスタートして日も浅い。切符自販機は世界各国にあるけれど、都心の駅に設置されているようなあれほどのハイテク機能付きはレアだろう。
生活のあらゆる場面で、「日本ってなんて便利な国……」と感嘆したくなるアイテム揃い。食事はおいしく、おしゃれなモノにあふれ、サービスはよい。そんな豊かさ、住みやすさ(=パラダイス)の中で、日本はかつてのような外国への憧れや興味を失い、閉じていく社会(=鎖国)へとシフトしていると著者は言う。
海外への関心が薄れるのが意識だけに留まるならいいが、現実には日本企業のビジネス戦略までが内弁慶化している。
現在日本は、アメリカ同様、国内消費が大きいため、非常にドメスティックな過当競争がある。それに集中して資金や人材を投入するので、海外市場を拡大する余力もなくなっている。そもそも日本の企業は変化が遅く、そのくせ「次世代ビジネスはこれだ!」などと衆目の一致する分野が生まれれば、こぞってエネルギーをつぎ込むため、飽和も早い。
その事象と連動するように、ジャパンマネーが驚異だったのは昔の話。GDPではいまなお世界2位の経済規模を持つ大国でありながら、世界市場、とりわけアメリカでは日本の存在感が確実に薄れつつあることを、著者は指摘する。
もともと日本は、「〈果てしなき生産性向上〉によりコストを下げること」、そして「高品質高性能のプレミアムを付けて売る〈ジャパン・ブランド〉のグローバル化」という二つの戦略で勝負してきた。
ところが、自動車ではそのスタイルを維持しているものの、これまで日本優位だった半導体、デジタルカメラ、薄型テレビをはじめ、冷蔵庫やエアコンといった白物家電などは転落の兆しが見られるという。世界での競争力と販売網を失い、ビジネスがますます国内に引きこもってしまう「パラダイス鎖国」によって、日本のブランド価値はますます低迷しかねない。
鎖国化で「日本」というブランドが消滅する
その端的な例として挙がっているのが、携帯電話だ。
90年代半ばまでは、日本は技術力、サービス、端末シェアなどすべてが世界のトップ。しかし、巨大なマーケットを持つアメリカは97年当時まだアナログだった。アメリカはいくつかある世界標準のデジタル通信方式からどれかを選ぶ道をたどるのだが、この混乱期に日本はアメリカ市場に見切りをつけた。
それはちょうど日本のデジタル化の進化とJフォンの新規参入で、国内のビジネスチャンスの波と重なっていた。ソニー、日立、東芝など数多のメーカーが本腰を入れ、ビジネスは湧いた。
2001年には第三世代ケータイサービス(FOMA)が世界に先駆けてスタートし、独自の通信方式で孤立していた状況ではなくなった。そこで世界をリードする携帯技術力で日本の携帯電話が売れるようになるはずだった……のだが、あにはからんや、すでに世界市場を手放していた日本には海外への販売ルートがなかったのだ。
それは同時に、日本の携帯電話の端末デザインや機能があまりに進んでいるため、海外のメーカーはほとんど入り込めない市場を作り出していた。
個々の国内メーカーはパイの奪い合いで苦しいが、加入者ベース、金額ベースで見ると、内需だけでもそこそこ豊かな市場がある。これが典型的なパラダイス鎖国現象だ。
〈パラダイス鎖国状態が続くと、これまで築いてきたジャパン・ブランドが消滅し、長期的に生活水準の低下を招く危険がある〉
〈いまの日本なら、新しいものを作り出すための途中の無駄やコストを負担する余裕がある。その余裕すら失ってしまう前に、新しいものを作り出すための一歩を踏み出すべきなのだ〉
このままで行けば日本は行き詰まる。閉塞のスパイラルに入って抜け出せなくなる前に、ゆるやかな開国をせよとポジティヴな提言を掲げたのが本書だ。
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