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警視庁を説き伏せろ、7時間道路閉鎖を譲るな~『東京マラソン』
遠藤雅彦著(評:近藤正高)

ベースボール・マガジン新書、760円(税別)

  • 近藤 正高

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2008年5月16日(金)

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東京マラソン

東京マラソン』遠藤雅彦著、ベースボール・マガジン新書、760円(税別)

 日本人ほどマラソンが好きな国民は珍しいようだ。テレビ中継にしても、生放送で、それもスタートからゴールまでノーカットで中継するというのはどうも日本ぐらいだと聞く。

 また、日本では多くの人がマラソンの距離を聞かれれば「42.195km」と答えられるが、本書によればこれもかなり珍しいことのようだ。

 アメリカでは「26.6マイル」というのが一般的で、厳密には「26マイル385ヤード」なのだが、数字を5つもおぼえるのはめんどうなので、縮めてしまうらしい。そのおかげで、2006年のニューヨークシティマラソンでは、大会のオフィシャルタオルに「ニューヨークシティマラソン26.6マイル」という文字とともに「42.6km」と入っていた、なんてこともあったという。

 それほどまでにマラソンについて正しい知識をもつ人も愛好者もたくさんいるにもかかわらず、日本には長らく、ニューヨークシティマラソン、ボストンマラソン、シカゴマラソン、ロンドンマラソン、ベルリンマラソンといったワールドマラソンメジャーズ、いわゆる「ファイブメジャーズ」に匹敵する都市型のマラソン大会はなかった。

 たしかに、これまでにも東京では、東京国際マラソン、東京国際女子マラソン、東京シティロードレースといったマラソン大会が行なわれてきた。しかし、これらはすべて一部のエリートランナーのみが参加を許された大会である。またこれらの大会は、新聞社やテレビ局といったメディアによって主催された。

 東京マラソンはこういった従来の国内での大会の常識をことごとく覆し、メディアではなく東京都という自治体が運営主体となって、エリートと市民ランナーが一緒に東京都心を走るというものである。しかもそのランナーの数は3万人。内容だけでなく規模においても日本では初のこころみといっていい。

 本書では、そんな空前のスケールのマラソン大会がどのように準備され、第1回開催にいたったのか、都庁内に設けられた東京マラソン組織委員会事務局の事務次長という当事者の立場からそのプロセスが語られている。

 大会の準備にあたっては、規模が規模だけに、各方面との折衝にはひときわ苦労が多かったようだ。たとえば、大会の開催時間中の交通規制のため警視庁と折衝する必要がある。このとき問題になったのが、制限時間をどれだけ設けるか、ということだった。

 従来のエリートランナーによる大会なら、遅くても3時間以内には全走者が走り切ってしまう。ランナーが通過したところから規制を解除していけば、道路の封鎖は30分程度で済む。それもあって、当初、警視庁は東京マラソンでも制限時間は3時間程度を考えていたような感触があった、と著者は記している。

7時間を死守せよ!

 だが、一般のランナーで3時間以内にフルマラソンを完走できる人などそうはいない。4時間を切る人でもごくわずかだ。だから制限時間が短ければ、それだけ途中棄権者も増えることになる。世界の市民マラソンでも、制限時間はだいたい7時間に設定されており、ロンドンマラソンやニューヨークシティマラソンにいたっては事実上、制限時間はない。

 石原都知事がニューヨークシティマラソンを視察した際には、現地のランナーから「東京マラソンの制限時間は7時間にしてください」と要望されたという。それもあって、事務局は7時間を目標に警視庁と折衝を進める。その具体的なやりとりはつまびらかにはされていないが、そうとうの抵抗にもあったのではないか。

 だが、大会開催に向けて見通しが立ってくると、事務局もだんだん強気になっていく。著者は警視庁との折衝にあたる担当者に、「7時間を一歩も譲るな」と言い渡したという。そうやって粘りに粘った結果、最終的に都側の提案が認められたのだった。

 もちろん、交通制限によって各方面で影響が出ることは避けられない。そのため事務局は、とりわけ大きな影響の出そうな企業には個別に説明に赴いている。そのひとつが、はとバスだ。

 東京マラソンでは、浅草、銀座、東京タワー、皇居と東京の観光名所をめぐるコースが選ばれたが、これははとバスの人気コースと重なる。そのため大会当日、はとバスは定期観光バスをほとんど運休せざるをえないほどだった。それでもスタッフが説明に出向いたところ、なんとか理解をえることができたという。

 その数日後のこと。著者ははとバスに勤める知人から、「ずいぶんひどいことをするじゃないか」と笑いながら言われ、とっさに「どうせバスと運転手が余るのなら、こっちで使ってもいいよ」と言い返したという。この突然の提案に相手が乗ってくれたおかげで、結果的にはとバスは東京マラソンのスポンサーとなり、バスを提供することになった。

 はとバスから提供されたバスは、リタイアした選手をフィニッシュ会場まで運ぶ収容バスや、フィニッシュ会場と近隣の駅とのあいだをつなぐシャトルバスのほか、スタッフがスタート会場からフィニッシュ会場へ先回りする際に使われるなど大活躍した。ひょんなことから、大会によって本来迷惑をこうむる相手に、大会へ参加してもらうことになったという一例である。

 このほか東京マラソンには、車椅子のランナーをうけいれたり、また大会前に参加ランナーを主な対象に、スポーツ用品や健康食品などを展示・販売するエキスポを開催したり、あるいは、第2回大会でのボランティアの一般公募では、あっという間に定員に達してしまったという話など特筆すべき話題が多い。

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