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「見えざる手」よりも「弱い人」~『アダム・スミス』
堂目卓生著(評:荻野進介)

中公新書、800円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年5月20日(火)

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アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界

アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界』堂目卓生著、中公新書、800円(税別)

 経済学の古典をいくつか挙げよ、と問われたら、たいていの人が真っ先に指を屈するのがアダム・スミスの『国富論』ではないだろうか。

 そこには誰もが知っている有名なフレーズがある。「見えざる手」である。個々人が自分の利益を追求する利己的な行動を取ることは何ら非難に値しない。むしろ、そうした行動が、市場の価格調整メカニズムを経て、公共の利益を促進するのだ、という文脈で使われる言葉だ。

 意外なことに、見えざる手が出てくる箇所は同書中、一箇所だけなのだが、語られている内容と言葉によほどインパクトがあったのだろう、著者いわく、いつの間にか、スミスは、政府による市場の規制を取り払い、競争を促進することで豊かな強い国を作るべきだと唱えた、究極の市場原理者というイメージが流布している。

 それに対して、異を唱えるのが本書の立場である。スミスが生涯で著したもうひとつの著作である『道徳感情論』と当の『国富論』を丁寧に読み解くことで、そうしたスミス像を修正し、社会秩序の維持と繁栄の実現を追求する骨太な思想家として捉え直す。

 まず『道徳感情論』であるが、同書は、人間は自分の利害に関係しなくても、他人の感情や行為に関心を持ち、それが適切かどうかを判断する、というごく当たり前の指摘から始まる。そのための能力をスミスは「同感」と呼び、著者は同書の中でもこの概念に最も注目する。

 人間は、いろいろな感情や行為のうち、あるものは他人によって是認され、あるものは否認されることを、経験によって知る。そこでどうするかというと、自らの胸中に「公平な観察者」を置き、それによって、自己および他者の感情や行為を評価する。

 ここで、スミス曰く、人間は二種類に分かれる。世間の評判のみで評価を下す人と、公平な観察者の評価を頼りにする人である。

「弱い人」が経済を発展させる

 ある芸術家が、自分では失敗作だと思う作品を発表したにも関わらず、世間からは高い評価を得たとしよう。スミスは、この評価を素直に喜び受け入れる人間を「弱い人」、世間の絶賛を軽蔑し、作品を作らなければよかったとさえ思ってしまう人間を「賢人」と名づけた。

 しかも、ひとりの人間のなかに、弱い人と賢人が同居している。つまり、「弱さ」と「賢明さ」、どちらの性質も備えているのが通常の人間なのだ。

 スミスの慧眼はこの弱い人、もしくは個々の人間の弱さが経済発展の原動力であることを見抜いた点だった。文明が進歩し、物資的な豊かさが実現するのは、こうした人間の弱さに端を発する、富に対する人間の野心=虚栄心があるからだ、とスミスは指摘するのである。

 弱い人は最低限の富を持っていても、世間からもっと評価されたいと思い、より多くの富を欲する。財産や地位に与えられる世間の賞賛と尊敬が魅力的だからだ。無人島で、ひとりで暮らしていれば持たないような野心を抱くのは他人の目があるから、なのだ。

 もちろん、万人の心にいる「公平な観察者」がないがしろにされ、賢明さが発揮されない社会は滅びる。賢明さとは、社会秩序の基礎となる倫理や正義感といってもいい。人間の弱さが社会の繁栄を導く原動力なのだが、そのためには賢明さによる制御が不可欠となる。

 ここまでが、『道徳感情論』が描き出した「同感→弱さ→経済的な繁栄」という図式である。実はこの同感が次の『国富論』でも重要なキーワードになっていると著者は主張する。

 国が豊かになるためには分業と資本蓄積が不可欠だという主張が『国富論』の骨格をなすのだが、ここでは分業の意義を見てみよう。

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