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普通の人が、生きるために、考えること~『ホロコースト』
芝健介著(評:朝山実)

中公新書、860円(税別)

2008年5月21日(水)

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評者の読了時間6時間00分

ホロコースト ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌

ホロコースト ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌』芝健介著、中公新書、860円(税別)

 186~7頁に地図がある。ドイツからいまの東欧にかけて発疹のような大小の点がつけられている。大きな印はダハウ、マウトハウゼンなど13、アウシュビッツ、ソビブル、マイダネクなどの「絶滅収容所」と記されたのは6、それぞれの周辺を、支所や強制労働キャンプを示す小さな粒々の「・」が衛星のように取りまいている。東方にいくほど数は密集し、著者が示すその理由を知れば暗澹とせずにはいられない。

 本書は、ヒトラー政権下のナチス・ドイツによって行われた、ユダヤ人の大量殺戮=ホロコーストについての生真面目な研究書だ。

 いろいろ発表したいことはあったようだが、著者は殺戮が如何にして実行されていったのか、その過程の記録に絞っている。伝えたいのは、平常なら起こり得なかったであろう「悪魔の行い」を人間がなぜ為しえたのか。

 犠牲者の数は、少なく見積もっても500万人。調査によっては600万人(そのうち子供は100万人を超える)以上ともいわれる、一民族を抹殺しようとしたホロコースト。犠牲者の数がはっきりしないのは、記録が敗戦直前に焼却されてしまったからだ。

 決して、読んで気持ちのいい本ではない。

 根絶やしを願うほどの、反ユダヤ主義というものが日本人には理解し難いうえ、過去の出来事とはいえ、複数の強制収容所の中で一日に何百人、場所によっては何千人規模で、ベルトコンベアのように人が「選別」され、「労働不能」なものは殺されていく。

 犠牲となったのはユダヤ人ばかりではない。ホロコーストに先行して、身体障害者や精神障害者、政治犯が大量に殺戮された。

 何万、何十万、何百万。頁を繰るほどに気の遠くなるほど増え続けていく犠牲者の数の前に、一人ひとりの犠牲者に対する意識が薄らぎ鈍感になっていくことに、恐怖さえ感じてしまう。

〈ホロコーストは、一九九〇年代以降、歴史学で大きく取り上げられるようになり、それとともにドイツではヘブライ語でホロコーストを意味する「ショアー」が使われる機会が多くなってきている。かつてホロコーストは、ヒトラーをはじめヒムラー、ゲッベルス、ハイドリヒ、アイヒマンなど、ナチ指導者たちの責任論で片づけられることが多かったが、現在では一般ドイツ人を含む広範囲の人間の社会的な問題と認識されつつある〉

 と、著者は記している。

「追放」のもくろみが、占領地拡大で崩れる

 一般のドイツ国民は、当時これほどの大量殺戮が行われていたことを知らなかった。ヒトラーの魔術にだまされていたのだとか、指導者の暴走を食い止める手立てはなかったのだとか、独裁者ひとりに全責任を被せてしまう言説に対して、本書は疑問を投げかけるものだ。

 ヒトラーが国民の広範な支持を得ていった理由のひとつに、彼が掲げたユダヤ人排撃のプロパガンダがある。

 第一次大戦後、敗戦国となったドイツは莫大な賠償金を課せられ、国民生活は窮乏をきわめていた。日々の不満をユダヤ人に向けさせることでナチ党は支持を得ていくわけだが、だとするなら、仮にも選挙によって選ばれた権力が600万人もの人間を機械的に「処分」していったという現実と、当時のドイツ国民の多くはほんとうに無関係でいられたのか。当時もいまもドイツ人の多くは、このナーバスな問題になると沈黙してしまう。まだまだ過去にはなりえていないという証であろう。

〈一九三三年にヒトラーが政権を獲得してはじまったユダヤ人弾圧政策は、当初、ドイツからユダヤ人を「追放」することであった。当時、ドイツ国内のユダヤ人は約五六万人である。ナチ党はユダヤ人をゲルマン民族に害毒を振りまく劣った民族と規定し、さまざまなユダヤ人への差別規定を設け、パレスティナのユダヤ人機関とも協定を結び、ドイツからの追放を画策した〉

 ナチスとしては、ユダヤ人から家や土地、資産を奪い、追い剥ぎのようにして収容所に連行し、家具の残された空き家をドイツ人に供することで一挙に住宅問題の解決を図ろうとした。ユダヤ人を遠くに追い払うことができれば、ナチス・ドイツのシナリオは完結を見た。

 しかし、この目論みが崩れてしまうのは、オーストリア、チェコ、ポーランドと支配地域を東方へと拡張していったことによる。

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