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この二人、すべってもスリリング~『本と映画と「70年」を語ろう』
鈴木邦男・川本三郎著(評:朝山実)

朝日新書、740円(税別)

2008年5月26日(月)

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評者の読了時間4時間30分

本と映画と「70年」を語ろう

本と映画と「70年」を語ろう』鈴木邦男・川本三郎著、朝日新書、740円(税別)

 シルベスター・スタローンが映画の宣伝で来日していた。あるテレビのインタビュアーにあてられた時間は5分で、その限られた時間を彼はスタローンに対する親近感をアピールするだけに費やしていた。

 チャンネルを切り替えるたびに顔の筋肉がたぷたぷのスタローンが出ては、映画に関係しない質問の連続にも機嫌を損なうこともない。マッチョな腕に触らせてと言われても、笑い顔。関係ないけれども、数日前、動物園で子供たちが檻の中の動物に「おい、動け、おい動け」と声をあげていたのを思い出した。

 動物たちもストレス抱えてんだろうなぁ。まあ、高額のギャラをもらっているとはいえ、プロモーションに駆り出される俳優もご苦労だよなぁ。

 と、思っていたら、「王様のブランチ」で映画コメンテーターのLiLico(リリコ)が同じ5分の中で、映画のテーマにふれる質問をすると、ドヨーンとたるんでいたスタローンの頬はいっきに張りがよみがえり、口調も弾みだした。笑顔でもなかった。映画について訊こうとはしない人たちの行列に、どれだけ彼がうんざりしていたのか一目瞭然。たかが5分。その5分をどう使うか。ひとつの質問にその人があらわれるし、仕事の成果も変わるという好例だった。

 それはさておき、本書は、新右翼の論客である鈴木邦男と、文学や映画の評論で知られる川本三郎との対談をまとめたものだ。

 鈴木氏は1943年生まれ。川本氏は44年生まれ。団塊のすこし上の世代という共通点はあるものの、接点のなかった二人が膝詰めで語るという趣向がまず興味をそそる。

 「激論」を看板にしながら実は旧知の間柄で、話に花が咲く。予定調和な取り組みが多いものだが、この本の企画は異なっている。

 持ちかけたのは、鈴木だ。70年代のはじめに起きたある事件に対する関心が、川本に会いたいと思わせた。

 「赤衛軍」を名乗る若者が、朝霞の自衛隊駐屯地を襲い、武器を強奪しようとして失敗。自衛官を殺害するという事件が起きたのは、1971年8月のこと。「浅間山荘事件」の半年ほど前のことで、犯人と関わったのがもとで、当時「朝日ジャーナル」の記者だった川本は逮捕され、朝日新聞社を辞職する。

 事件の経緯について、川本は自著『マイ・バック・ページ-ある60年代の物語』(河出文庫)に記している。自分と時代、関わった事件を対象化しようとした、異色にして、川本にとって唯一の力作ノンフィクションだ。

政治にのめりこむ右翼と、関わるまいとした評論家

 団塊世代が定年を迎えることもあり「70年代」を回顧する本がちょっとしたブームである。本書もそうした流れの中で生まれた企画なのだろうが、川本が事件の関係者でなければ二人が出会って話すということもなかったであろう。

 かたや、青春時代は政治にのめりこんでいた右翼の活動家。いっぽう、政治には関わるまいとしてきた評論家。「事件」の裏話を聞いてしまえば、鈴木にとって、川本との話題は尽きたかに思える。事実、互いに持ち出す話は噛み合わない。同じ時代を生きていながらも、人はそれぞれというふうに解釈できる。

 鈴木も川本も、互いに気を遣いながら話の接ぎ穂を探そうとする。鈴木が、3万円くらいの出費で見られるものなら見たいと語る、三島由紀夫原作の恋愛映画に、「あの映画、作品としての評価が低いんですよね」と、川本のそっけないこと。どう答えたものか、すぐに思い浮かばなかったのだろうか。

 鈴木は、小学校の「えにっき」に書いた映画の感想文を読み返し、見たくなったのだという。個的な体験や欠片のような記憶に重きを置くあたりは、川本と資質が似通っている。

 タイトルにあるように、対話は映画と文学に絞られる。映画や文学を介して、三島由紀夫や天皇制、全共闘の時代風景を語りたい鈴木に対して、川本はするっと関心のうすさを表明する。

 鈴木は、ゲストの川本を立てようと、先の三島の「夏子の冒険」もそうだが、困ると映画の話に戻る。川本の話で見てみたくなったのは、ロバート・アルドリッチ監督の「アパッチ」(1954年)だ。

「僕ら子どもの頃はインディアンは悪者だった」

 という鈴木に対して、川本は、

「アメリカの西部劇はみんなインディアンを悪者にしてしまったと言われてますけど、細かく見ると決してそんなことはないんです」

 ジョン・フォード監督の西部劇のヒットで、日本でもインディアン=悪者のイメージは定着したが、1950年代のハリウッド映画にはインディアンを悪く描いていないものもあり、いくつかのタイトルをあげている。良心派ともいうべき映画人たちのルーツをたどると、1940年代後半に「赤狩り」で犠牲になった人たちにゆきつくという。

 なかでも「アパッチ」は当時、アクションスターとしてしか認識されていなかったバート・ランカスターが製作している。自らインディアンを演じ、赤狩りにあったアルドリッチを監督に起用したというから、どんな映画か見てみたくなるではないか。

 戦争映画は怖くて見ることができないと語る川本と、学生時代はやくざ映画しか見ていないという鈴木。

 鈴木が左翼人脈をあげて、こぼれ話で盛り上げようとすればするほど、会話は途切れる。川本も、どこまで自分の専門を話題にしていいものか、迷っているかのようだ。行間から居心地の悪い二人の「間」が見て取れ、鈴木の目線に立てば、客あしらいに苦労しているホステスを見るように、すこし気の毒にすら思えてくる。

 すべっているお笑いコンビのように、場が盛り上がらないのは、読者の目には明らかだ。早々にお開きにしてもよかったであろうに、対談を重ねていく。

 本書が面白いのは、鈴木が関心をもっていた事件を離れてからである。

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