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福田さん、サミットは期待していい?~『「炭素会計」入門』
橋爪大三郎著(評:荻野進介)

洋泉社新書y、780円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年5月28日(水)

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「炭素会計」入門

「炭素会計」入門』橋爪大三郎著、洋泉社新書y、780円(税別)

 子どもの頃、鉛筆の芯(黒鉛)とダイヤモンドが同じ炭素という物質からできていることを知って驚いた記憶がある。炭素といえばすぐ思い浮かぶのが二酸化炭素である。息つぎがうまくできずカナヅチだった評者は、二酸化炭素=人を窒息させる悪玉ガス、というイメージが強かった。植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出していることを知ってからは、炭素および二酸化炭素の地位は、評者のなかでは少し向上したのだが。

 その炭素が人類にとって極めて厄介な物質になりつつある。それ自体は植物に不可欠の物質であり、植物が出す酸素を必須とする人間にとっても大切なものであることに変わりないが、石油や石炭といった化石燃料の使いすぎで、地球温暖化という現象が引き起こされてしまった。悪玉ガスという認識は半分くらい、正しかったのだろう。

 本書はその炭素を主題に据え、これからの日本が取るべき国家戦略を説いた本である。「地球温暖化」や「環境破壊」といった言葉はほとんど使わず、それらを引き起こす主原因である炭素を減らす方法、減らせないまでも増やさない仕組みの構築を日本がどう実現するか、さらに、それを世界にどう働きかけていくべきかを明解に論じる。目指すは世界に先駆けた低炭素社会、低炭素文明だ。

 そのためには、いくつかのイノベーションが必要だと著者はいう。

 炭酸ガス(二酸化炭素)が厄介なのは分解が非常に困難な点にある。そこで、分解できないなら別途、隔離してしまおうという考え方がある。これが「炭素隔離」であり、そのための技術開発を日本が早急に進めることを著者はまず提案する。

 技術的な難易度は決して高くない。例えば発電所の排気が空気中に出る前に処理し、炭酸ガスを抜き取り、最後に圧力をかけて液体化してしまえばいい。しかし、実施すると発電コストが5割増にもなるため、実用化に向けた取組みが本格化していないのだという。

 温暖化防止に向けた国際包囲網が狭まるなか、これは産油国や石炭輸出国にとっては喉から手が出るほど欲しい技術だと著者は考える。協力国を募り、その国の資源を担保に、その国の資金で技術開発を行い、成功した暁には、その技術をグローバルスタンダードとして広めるのが日本にとって最も賢いやり方だ、というのだ。

 大気中に放出される炭素を増やさない水際作戦が「炭素隔離」だとしたら、炭素を元から絶つ、つまり、化石燃料を使う行為を抑制する施策が「炭素税」である。文字通り、石油や石炭の元売り会社に、排出する炭素の重量に応じて課す税金のことである。

個人単位で、炭酸ガス排出に課徴金、まで論じる

 得られた税収は一般歳入に繰り入れず、代替エネルギーの開発や温暖化防止のための新技術の開発に投資されることが望ましい。加えて、税金逃れの工場移転を防ぐため、各国が同じ税率で、かつ一斉に導入すべきだと著者は指摘する。

 炭素税をもっと大がかりにした仕組みが「炭素会計」である。大まかに説明すれば、誰の、どんな経済活動が、どれだけの炭酸ガスを排出したかを計量し、それぞれの部門や経済主体ごとに集計したうえで、炭素の排出規制や取引の際の参考にするもの、だという。

 作成にあたっては、各産業間の取引関係を示した経産省所轄の産業連関表を応用し、すべての工業製品に炭酸ガス排出量(炭素指標)が明記されるようにしたらいい、と著者はいう。温暖化危機意識の高い主婦は「このトイレットペーパーはいつものより高いけど、排出量が少ないから買おうかしら」となるので、企業の低炭素商品開発に弾みがつくというわけである。

 どれだけの主婦が高いトイレットペーパーを進んで買うかはさておき、炭素の絶対量が記載されるわけだから、エコマークよりわかりやすくなるのは確かだろう。

 また、炭素会計は個人向けにも作るべきだともいう。個人単位で炭酸ガスの排出量を割り当て、その分を超過したら課徴金を取って少ない人に還付する。つまり個人の排出権取引市場を設定する、というわけだ。著者の真剣さに水を挿すつもりはないが、炭素の偽装計量や押し付けあいといった、筒井康隆が筆を執ったら面白そうな事件の発生を想像してしまった。

 著者は高名な社会学者。地球は本当に温暖化しているのか、温暖化が事実だとしても炭酸ガスが原因なのか、温暖化にもよい面があるのではないか、といった議論が百出しているが、「今は温暖化についての『真理』を追っている場合ではない、かなりの可能性で危機が迫っており、今ならそれを避ける方法があるなら、断固として実行すべきだ」と、温暖化危機の到来を前提として議論を展開する。

 温暖化防止ファシズムだ、といえば、その通り、と答えそうな雰囲気であり、最終的には、政治が決着を付けざるを得ない問題なのだという。

 本書で繰り返し述べられるのが、日本の国家戦略の不在である。

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