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トラブル校にやって来る『青い鳥』
~話し上手よりも「たいせつなこと」

  • 澁川 祐子

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2008年6月4日(水)

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青い鳥

青い鳥』重松清著、新潮社、1600円(税抜き)

 私は、しゃべりが下手だ。話しているうちに、何を話したかったのか忘れてしまったり、気の利かない相槌を打ってしまったり。人と話した後は反省しきりである。だから、書くことを仕事にしたのかもしれないが、ライターという仕事は取材や売り込みなど、思った以上に「しゃべり」が重要な場面が多く、凹む機会は一向に減らない。

 でもきっと「話すのが得意」と自信満々に言える人は、そう多くはいないだろう。たいていの人が大なり小なり、どうやったらうまく話せるだろうかと悪戦苦闘している。だから、話し方やコミュニケーション術を指南する本はなくならないし、次々と新種が発売される。

 かくいう私も、そういったハウツー本を時折チェックせずにはいられない人間だ。そして、そこに書かれている「こうすれば相手に好かれる!」「こう言われたときはこう返す!」なんておびただしい数の事例に圧倒され、「なるほどなあ」と思うと同時に、「本当にそんなんでうまくいくのかなあ」と割り切れないものをいつも感じてきた。

 自分が生身の人間であるならば、相手だってそう。同じ相手に同じことを言おうと思っても、相手と自分の関係やそのときにお互いが置かれている状況によって、言葉の意味は変わってくる。だから、たとえ話し方のテクニックを身につけたとしても、万能とは限らない。コミュニケーション能力ってのは、結局話の上手い下手だけでは測れないもんじゃないか。

 そんなふうに悶々としていたら、「うまくしゃべれないけど、言いたいことをちゃんと伝えられる人」に出会った。小説『青い鳥』の主人公、村内先生だ。

 村内先生は、中学の臨時講師。問題を抱えた子どもたちがいる学校を転々としている。いじめや不登校、学級崩壊、親の自殺に虐待……誰にも打ち明けられない悩みを持て余し、まわりにうまく溶け込むことができない。『青い鳥』は、一話に一人ずつそんな不器用な「ぼく」や「わたし」が登場し、村内先生との出会いによってゆっくり変わっていくさまを描いた連作短編集だ。村内先生は子どものそばにそっと寄り添い、語りかける――ただし、その言葉はひどくどもっているのだけれど。

たいせつなことだけ、口に出す

 この物語の最大のポイントは、村内先生が吃音者であることだ。「話す」ことが主な仕事といってもいい教師という職に就いていながら、である。「カ」行と「タ」行と濁音は全滅。本気になればなるほど、言葉がつっかえてうまく話せない。朝礼ですら、

〈おはよう、ごっごっございます。きょ、きょ、きょ、今日は生活指導部からの、ぷっ、ぷっ、ぷっ、ぷぷぷプリントがあるので、くくく配ります〉

 というありさまだ。なのに、村内先生の言葉は、それまで誰もが触れることのできなかった生徒の心のなかにすっと沁み込んでいく。なぜなら、村内先生は「たいせつなこと」しか話さないからだ。

 たとえば、表題にもなっている「青い鳥」という一編。「ぼく」のいるクラスには、一つだけポツンと空いている席がある。いじめを苦に自殺を図り、それがきっかけで引越していった生徒の席だ。いじめについてクラス全員が反省文を書き、残された生徒たちがこの一件を「終わったこと」にしようとしていたその時に、村内先生はやってきた。そして、「忘れるなんて、ひきょうだなあ」と言って、いじめを受けた生徒の席を戻したのだ。

 村内先生は、憮然としている生徒たちに向かって、

〈どんなに言葉がつっかえても、本気で言わなければいけないことは本気で言います――と、めちゃくちゃに言葉をつっかえさせながら、言った〉

 そして、〈ひとが本気でしゃべっていることを本気で聞くのは当たり前のこと〉であり、みんなそれができなかったから、つまりいじめられた子の声を聞くことができなかったから自分がここにやってきたのだと。

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