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将来、文部大臣になる男!?~『私塾のすすめ』
齋藤孝・梅田望夫著(評:荻野進介)

ちくま新書、680円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年6月3日(火)

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私塾のすすめ ここから創造が生まれる

私塾のすすめ ここから創造が生まれる』齋藤孝・梅田望夫著、ちくま新書、680円(税別)

 長くも短くもない髪、細面の顔、眼鏡、縦縞のワイシャツ。帯に並んだ二人の写真、「似ている」と思わない人は稀だろう。しかも年齢も同じだ。方や「声に出す」派、方や「ネットでコツコツ書く」派、出版界きっての売れっ子二人による対談本である。

 二人の著者を持つ対談は、中心がふたつある楕円のような読み物と言える。話の内容が同じで互いの個性が引き立たないものなら、中心が重なり合い、限りなく円に近いものになるし、相違点が多すぎて議論が噛み合わなければ、楕円どころか、いびつなアメーバ状になってしまう。その点、本書は、根っことなる問題意識は同じだが、方法論やスタイルが違うという相手にお互い恵まれ、きれいな“楕円”対談になっている。

 共通の根っこというのが「私塾願望」だ。それは、識見に富む人格者を師と崇め、志を同じくする仲間と学び合い、かつ、自ら私塾を主宰し学びの場を提供したい、という思いのことだ。

 二人とも、『学問のすすめ』を著した福沢諭吉への崇敬の念をもつ。その福沢も緒方洪庵の適塾という私塾で学んだ。当時、維新の志士を輩出した松下村塾という私塾中の私塾もあった。激動の時代という点で、現在と明治が酷似していると考える齋藤は、その点からも私塾の現代的意義を訴える。

 齋藤は教育学者であるから、教師が上から授ける「教育」という観点が強く、一方の梅田は、能力の増幅器としてのネットを活用し自ら成長すべし、という「学習」の視点が強い。このあたり、対談ならではの、いいコンストラストが出ている。

 なぜ今、私塾が必要なのか。二人によれば、「あこがれが人を作る」という、教育ならびに学習の原点が忘れ去られているからだ。

 齋藤は小さい頃から偉人伝を熱心に読みふけったタイプで、自己イメージの確立に役立つからと、授業では学生に、自分があこがれる人物を3人挙げてもらうという。梅田は、あこがれのロールモデルを何人も心にもち続け、その人の生き方を真似ることで自分も成長していこうとする(梅田はこれを「ロールモデル思考法」と名づけている)。

 齋藤にとってのあこがれの人、筆頭格はナポレオンだ。小兵ながら活力にあふれ、戦闘向きというタイプが自分と似ていると思い、惹かれたという。

 梅田にも数多くのロールモデルがいるが、なかでも「時間の使い方」を真似ようと思ったのが村上春樹だそうだ。毎朝早起きし、土日もなく毎日仕事し、家で過ごす時間が極めて長い。こういうスタイルにあこがれ、自分の生活もチューニングしてきた。

「あこがれ」を信じ、量をこなすことを恐れない

 バーチャルかリアルか、の違いはあるものの、個対個でつながった師弟、あるいは弟子同士が学び合う場が重要、という点では、二人の意見は一致する。問題は、その場合の対象者は誰か、ということだ。

 齋藤の場合、自ら絵本を書き、あるいは、生徒に音読させたり四股をふませたりする教室も主宰しているため、ゼロ歳から百歳までの全国民と言ってはばからない。しかも、「教育すれば、誰でも伸びる」と信じている。

 対照的に、梅田は自分のブログを見に来てくれる数万人の読者、その中でも、自発性があって、打てば響くような若者に大いに期待する。

 やる気のない人は無視するのが梅田流なら、やる気のない人をやる気にさせるのが齋藤流。その手法を尋ねる梅田に対して、「あこがれ」と「習熟」の大切さを齋藤は説く。

 あこがれとは、これがすばらしいんだと人からあおられ、その気になってやってみること。習熟とは「練習したらできた」という、限定的で構わない成功体験のこと。このどちらかを味わえば、どんな人でもやる気になる、と主張する。

 興味深いのは齋藤の夢である。本気で文部科学大臣になろうと考えているらしい。国の未来のビジョンを示すべき責任重大な存在なのに、その役職が政治家の間でたらいまわしにされている状態に耐えられないのだという。素直にこう吐露する。

〈僕自身が、教育に燃えているわりには、教育界に与える影響力は小さい気がしているんですね。(中略)本当にこの国を心配して、教育のことを考えるなら、もっと僕の話を聞いてくれ、と思います〉

 ここから話題が転じ、若い人に向けた仕事論となる。

 家族意識が濃厚だったこれまでの職場が一変し、自分らしさと、会社から割り振られた役割の間で葛藤する若者が多い状況に対して、「いつでも離れられる状態で会社と付き合っていると、かえってストレスが増す。それより、寒中水泳と同じで、一時はどっぷりつかってしまえ」と齋藤がのたまえば、「断られたり、否定されたりすることを恐れるな、営業もそうだが、同じことを50人に話せ」と、今まで物分りのよい兄貴風だった梅田も過激な言葉で返す。

 二人が異口同音に言うのが「量をこなすことを恐れるな」。この二人、見かけによらず、体育会系、いや知的体育会系なのだ。

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