• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

ゆっくりシャッターを切れば『心臓に毛が生えている理由』がわかる
~止まらない好奇心から仕事のスタンスを学ぶ

2008年6月18日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

心臓に毛が生えている理由

心臓に毛が生えている理由』米原万里著、角川学芸出版、1600円(税抜き)

 ネバネバしていて目にするのも不快だから納豆食を禁ずる。そんなことが国際会議で議決でもされたら、どうします?

 納豆でなくても、あるいは、おしんこだったらどうだろうか。漫画じゃないんだからと一笑されそうだが、1054年、ギリシャ正教会がローマ・カトリック教会から分裂したのは、ある食べ物が原因だったという。

 いまとなってはぼんやりと、世界史の時間に「三位一体」の解釈や「マリア崇拝」をめぐる意見の相違が理由と教わった記憶のある大事件だが、米原万里さんの「黒パンの力」というエッセイを読んでいるうちに、日本人なら何にあたるのだろうかと空想を広げた。

 三位一体うんぬんはタテマエで、ほんとうは正餐式で使うパンが、騒動の引き鉄。「酸味のあるパンを正餐に用いることを禁じる」と、ローマ・カトリックの教皇レオ9世が宣言したのが大決裂を生んだという。

 酸味のある黒パンを好んできたロシア人にしたら、突然のいちゃもんである。納豆禁止に匹敵する一大事。好物を否定されて、面白かろうはずもない。民族的なアイデンティティーを否定されたのも同然と反発し、ロシアを傘下に収めたばかりのビザンチンは板挟みとなって、ローマからの離脱を選択した。

 本書は、一昨年、50代半ばにして亡くなられた米原万里さんのエッセイ集だ。「最後の」とオビの惹句に付せられている。これがほんとうじゃないかと、米原さんの繰り出す「愚見」のマメ知識は、教科書通りに詰め込んだものと違って、人間の顔が浮かんできたりするから面白い。

 ほかにも、形容詞の使い方にみるロシア人と日本人との違いや、ナポレオンが鶏肉を大好物とするまでの逸話など、引いたアングルで出来事の面白さを語る。なにより、教養を押し付けるような堅苦しさがないのがいい。

 記憶を綴ったものにこんなものがある。

お父さんはヒゴーホーのキョーサントー!

 昔は、近所の子供たちが集まると、父親の自慢をしあったもので、

〈僕んちのお父ちゃんは会社の部長なんだぞ! 京子のパパは一日に六〇本もタバコ吸うんだから! 家の父ちゃんすごいんだ、夜仕事に出かけて朝帰ってくるんだよ! こんな時私も(恐らく目を輝かせて)言ったものです。「家のお父ちゃん太っているんだから、キョーサントーなんだから!」。この最後のところで相手は必ずキョトンとして「何だ、キョーサントーって?」と尋ね返してきます。そこで勝ち誇ったように「知らないのか、ジミントウの反対だよ」と言って、相手がさらに困惑の色を濃くしているところにとどめを刺すのです〉

 米原さんは1950年生まれ。父親は非合法時代の共産党で地下活動を行っていた。大人たちがしている会話を、意味もわからないままに耳にし、これは自慢ポイントの高いものだと理解したのだろう。

 「お父ちゃんはね、十六年間も地下に潜っていたんだから!」と胸を張っていたという。どうだいと威張って見せつつも小さい暗い穴の中で、どのようにして16年間も入っていられたのか。想像してドキドキしていたというから、子供だなあと、ほほえましい。

 学校に入ってからも、山手線に乗って代々木駅が見えてくるたび、車内で「赤旗」の歌を元気よく唄った。だから、まわりの大人たちは、彼女を連れてお出かけする際は、例によってキョーサントー自慢をしやしないかと落ち着かなかったそうだ。

 共産党を恐がったり、毛嫌いする人たちが多い時期だっただけに、叔父たちの困った顔が想像できる。それでも、幼い天真爛漫さを、両親は押さえつけたりしなかった。

 両親に関する別のエッセイを読むと、さらに家庭の様子がうかがえる。世間からはみ出た共産党の家を守ろうという意識が働いていたからか、母は躾に厳しく、米原さんには幼い頃から抱かれた記憶がない。はやくから自立心は育まれたものの、甘えたいときに、甘えることができなかった。

 「童女になっていく母」というエッセイでは、自立の親玉だった母が、夫を亡くしてからというもの、子供のように米原さんに甘えるようになったと綴っている。

コメント2

「超ビジネス書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

機械を売るんじゃなくて、電気が欲しい方に電気が起きる装置をソフトも含めて売るビジネスをしていこうと。

田中 孝雄 三井造船社長