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『ノーベル賞受賞者の精子バンク』の顧客満足度は高いか低いか
~日本じゃ奇異でも世界では1億ドル市場らしい

  • 天羽あかね

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2008年6月11日(水)

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ノーベル賞受賞者の精子バンク――天才の遺伝子は天才を生んだか

ノーベル賞受賞者の精子バンク――天才の遺伝子は天才を生んだか』デイヴィッド・プロッツ著、酒井泰介訳、ハヤカワ文庫、840円(税抜き)

 「精子募集」「卵子募集1回3000ドル」。4年前、私が留学していた南カリフォルニアの大学の学校新聞には、こんな広告が毎週3つは載っていた。広告を見ながらアメリカ人の友人は、「子供はほしいけど、キャリアのことを考えるとねぇ。代理母を使うしかないかしら」と、さらり。

 「お父さんとお母さんが愛し合って子供は生まれるのです」ってな価値観を信じていた私にとって、南カリフォルニアに当たり前のように存在する、精子バンク、卵子バンク、代理母といった人工的な妊娠の選択肢は、けっこう衝撃だった。

 『ノーベル賞受賞者の精子バンク』は、そうした人工的な妊娠の手段の一つ、精子バンクについて書かれたルポルタージュだ。具体的には、ノーベル賞受賞者(後に、オリンピック選手、成功した実業家等も含んだ)の精子を、知能テストで上位2パーセントに入った女性たちのみに提供し、人類を「遺伝的悲劇から救うため」に作られた「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」(胚選択の貯蔵庫)という精子バンクをテーマとしている。

 実業家のロバート・グラハムによって1980年に設立され、後継者不足で1999年に閉鎖されるまで、19年続いたレポジトリー。この謎に包まれた精子バンクについて調べるため、著者はオンライン雑誌で働いているという立場を生かし、関係者にネットでこう呼びかけた。

「あなたの助けによって、ついにノーベル賞受賞者精子バンクの秘密を明かせるのです」

 誰もコンタクトしてくれないのではないかという予想に反し、複数の精子提供者と、レポジトリー関係者、それからレポジトリーから生まれた子230人の子供うち、20以上の子供とその家族に著者は接触できた。レポジトリーや、そこから生まれた子供は、いくつかの問題点を抱えていた。

 まず、何をさておいても、レポジトリーががっちがちに優生学的であるという問題がある。母親の一人は、この精子バンクを利用した理由を聞かれて、こう言っている。

「果物や野菜の苗を育てるとき、生育の良い苗を間引きはしないでしょ?子供も同じ」

いい精子から生まれたこの子は、すごいのよ

 もともとが、グラハムの優生学的な思想に基づいて作られたレポジトリーでは、ドナーについて詳細に書かれたカタログを見て精子を選ぶことができる。詳細なカタログから選ぶことは、より優れたドナーを選ぼうとすることにほかならない。

 「優秀」な精子を選んだ親の、子供への期待は過剰になる傾向にあった。

「……あなたはもっと立派なことが出来るわ」「……あなたには(育ての)お父さんよりもずっと優れた可能性が眠っているのよ。遺伝子が違うんだから」

 遺伝子は最高、あなたはできる。だからもっと頑張りなさい……。突然、会ったこともない天才が自分の遺伝子上の父だと告げられた子供は、明日から会社や学校でパフォーマンスをあげられるだろうか? 本書には、戸惑う子供の姿が描かれている。

 また、育ての父親と子供がうまく関係を築きづらく、結婚は破綻しがちであったという。著者がコンタクトした20以上の家族のほとんどに、父親がいなかった。自分と血のつながりもなく、自分の妻が選んだほかの男性の子供を、自分の子供として育て続けるのは相当の割り切りか度量、演技力が必要だ。しかも、妻が選んだ精子ドナーの男性は、IQや容姿の面で、自分よりどうしようもなく優れているのだ。不妊で悩まされていたケースが多い夫達が、ドナーとは張り合えないのも無理はない。

 それに加え、「ドナーの匿名性」という問題もある。

 レポジトリーが提供するカタログにも、さすがにドナーの実名や本人と特定できる情報は明かされていない。例えば英国やスウェーデンなどには、一定の年齢になったら自分の遺伝子の出元を知ることができる仕組みがあるが、アメリカにはその仕組みがまだない。

 しかし、レポジトリーから生まれた子供やその母親の多くは、精子提供者や腹違いの兄弟について知りたいと思う。そこで、藁にもすがるような思いで、インターネットにこんなメッセージを出して、血縁者を探すことになる。

「こんにちは、私の名前は×××。父を探しています。彼の髪の色はブロンド、目は緑色で身長は175センチ」

 優生学の危険性、過剰なプレッシャー、育ての父親と子供との溝、それからドナーを特定できる情報が非公開であることなど、この精子バンクをめぐる問題は沢山ある。では、レポトロジーは完全な失敗だったのか? 利用者たちは自分の選択を後悔しているか?

 結果はNoだ。

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