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「うまそう」をとっかかりに考えよう~『イラクは食べる』
酒井啓子著(評:島村麻里)

岩波新書、780円(税別)

  • 島村 麻里

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2008年6月12日(木)

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イラクは食べる──革命と日常の風景

イラクは食べる──革命と日常の風景』酒井啓子著、岩波新書、780円(税別)

 チグリス川で捕れる鯉の一種を背開きにして、薪で起こした火であぶる。そこにマンゴーのピクルスを載せて、焼きたてぱりぱりのアラブ式パンに挟み……。

 イラクの名物料理・マスグーフだ。「ホッケ」イラク版といってもいいだろう。この焼魚を出す店が、近頃イラクの周辺国で急増している……というところから、本書は始まる。

 なぜか。国を逃れたイラクの人々が、それほど多いということだ。かれらは、逃げた先で故郷の料理を懐かしむ。なかでもシリアには、2003年の英米によるイラク攻撃以降、年間20万人以上のイラク人が流入し、現在その数は200万人に迫る勢い、とも伝えられる。

 本書は、同じ著者による『イラク 戦争と占領』(岩波新書)の続編に当たる。イラクをめぐる最新情勢が、今度は、「食べる」という切り口を通じて紹介される。

 たとえば著者は、隣国イランとの食文化の近さから、フセイン政権後のイラクにおけるイスラーム教シーア派出身政党の台頭について考える。

 乾燥ライム(あちら流梅干しってとこか)を料理に使うなど、“酸っぱ系”の食べ物を好む傾向は両国にもともと共通していたし、イラク南部の人たちは、シーア派社会を通して、イラン側との国境を跨いだ文化ネットワークを古くから築いていた。

食べ物で見るシーア派、スンナ派、クルド

 著者によれば、イラクの現代政治史のなかで、「シーア派」という要素だけで政党が設立されたことはなかったという。しかし、「フセイン政権崩壊後、初めての自由で民主的な選挙」とされた2005年制憲議会選挙で勝利したのは、米国にとって都合の良い勢力ではなく、シーア派を中心とするイスラーム主義政党により担われた、「イスラーム主義政権」だった。かれらは米国の期待に反し、イスラームに基づく国家建設を志向したのである。

 では、「民主化」のプロセスで取り残されていった、スンナ派社会はどうなのか。著者は、「ファッルージャのカバーブ(串焼肉)」から、この問題に分け入っていく。

 ファッルージャは、都市近郊農業が行われ、カバーブで用いる羊肉が美味と評判の、バグダード近郊の小都市だった。そこで、04年に「米兵焼死体吊下げ事件」が起きる。

 学校を占拠した米軍に退去を求める平和裡な陳情に対して米兵が発砲、これが引き金となり、ファッルージャは、泥沼の闘いの場となっていく。スンナ派は統括機関として「ムスリム・ウラマー機構」を設立するが、米軍やアッラウィー新政権に軽んじられた結果、スンナ派社会は、政権参加に出遅れていく。

 逆に、「この世の春」を謳歌しているかのように映るのが、北部のクルド社会である。

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