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『若者はなぜ正社員になれないのか』川崎昌平著、ちくま新書、700円(税別)
「お前はN社で、何をしたいんだ」
著者は、大企業でバリバリ働くかつての同級生O君からそう問い詰められる。
26歳で就職活動を始め、ようやく面接にまでこぎつけた。それまでにいくつも落選を体験してきて、ここは確かな相手からアドバイスをもらおう。そう考え、会う約束を取り付けたのだが、「それは……入社してから……」と口ごもる著者に、O君は言い放った。
「あきらめろ」
著者は、自分のことをどこも特別なところのない人間だと断ったうえで、本書を書き出している。「普通の生活を手にいれたいと願っている」とわざわざ言う。そこに、ある種のエリート性が嗅ぎ取れるというと、すこし意地悪だろうか。
社会の側に擦り寄る努力はしてみたものの、あえなく跳ね返されてしまう。ありふれた「会社」の論理からすれば、受け入れがたい「ダメな若者」。著者はその一サンプルとなって、自分の体験を綴っている。
著者はある企業の筆記試験に挑んだものの、てんで歯が立たず、失意のままに立ち去ろうとする場面で、「黄梁一炊の夢」という感想を記している。こうした語彙をそなえた教養人である。
いっぽうで、応募した企業から携帯に電話がかかってきたはいいが、受けたのがたまたまパチンコ屋で、ジャンジャカ出玉は止まらない。どっちが大事か考え、騒音の中で受け答えしてしまうほどのツワモノぶりを自虐もこめて語ってみせる。
昔ふうに言うなら、無頼。そう見られてもいいかなと考える若者だ。
大学を出てから2年間というもの、ニートとフリーターの狭間で、定職に就かずにやってきた。が、ある日、突然に就職活動を始めた。
著者は肩書きを「無職」と自称している。それでも、すでに2冊の著書がある。『知識無用の芸術鑑賞』と『ネットカフェ難民
』 (いずれも幻冬舎新書)。
前者は、「東京芸術大学大学院卒」という看板を活かした美術入門書。後者は、ニートだった著者が一念発起し、派遣労働をしながらネットカフェを泊まり歩いたノンフィクションだ。
家も学歴もあるのに「難民」気取りですか?
世間からすればリッパな大学を出ていながら、どうして「ネットカフェ難民」を体験しようと思うのか。読者としては、その理由に疑問を抱きつつ、ページを追うことになる。
しかし、若者たちの話がサンプリングされているわけではなく、深刻さから逃れるかのように綴られる私的なヌルイ体験話が延々と続く。2行にまとめられそうな、うだうだした内面が4ページにもわたり吐露され、しかも知性を感じさせることが災いしていた。若者たちの苦境を伝えるレポートを想像して手にした読者からは、少なからぬ批判が寄せられたりしている。
まあ、怒りがわいたとしても、わからぬでもない。帰る家も学歴もある。それで「難民ごっこ」とは、同情に値しない。けしからんというわけだ。ただ、他人の領域を侵さず、徹底して「個」をベースにした体験記だけに「とほほ小説」として読んでみると愛嬌がある。
たとえば、難民体験20日目の出来事。警察官に職務質問を受け、交番で所持品検査に応じている。ここでのやりとりは臨場感、緊迫感に満ちている。
警察官たちは、著者を呼び止めるときは丁寧な物腰であった。が、一瞬にして態度を切り替える。「おい、おまえ」口調。著者の風体から、そういう口の利き方が妥当な相手と判断を下したのが読み取れる。
「定職」に就いていないということは「社会」でどのような扱いを受けるものか。警官の態度が代弁していた。
客観的に数多くの対象から話を聞きだし整理していくのが正攻法のルポだとすると、「僕」が見て感じ、考え行動したことの意味を掘り下げた単一なやり方は邪道かもしれない。だとしても、「僕」の視点でしか見えてこないものもある。
俯瞰したり、マクロなデータとして精査されてしまうと消散してしまう「におい」や「気分」、曖昧な「空気」がそれだ。
『ネットカフェ難民』では、「難民」に関わる(関与を避けることも含め)まわりの人たちの淡白さが細かくレポートされている。いても、いなくても変わらない。「員数」であって「個」を認証されることのないのが「難民」だとわかる。
そして、前著から一年を置かずに出たのが本書である。
著者が就職活動の手始めにやったのは、ネットで採用情報を検索し、とりあえず応募してみることだ。
最初にセレクトした8社には誰もが知る大手企業というくらいの意味しかなく、就職を考えているというにしては、個々の会社に対して何の興味も関心もない。結果は述べるまでもない。
著者も、不採用の山は当然と自覚している。ここでのマイペースかつ弁舌豊富な自己擁護ぶりは、自身を道化にしたコミカルな小説のようでもある。
そして第2ラウンド。ゲームのように、何がいけなかったのかを分析し、対策を練る。そして気づくのだ。
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