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痴話げんかとの境目はどこに~『家庭モラル・ハラスメント』
熊谷早智子著(評:三浦天紗子)

講談社+α新書、838円(税別)

  • 三浦 天紗子

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2008年6月19日(木)

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評者の読了時間4時間00分

家庭モラル・ハラスメント

家庭モラル・ハラスメント』熊谷早智子著、講談社+α新書、838円(税別)

 難しい専門用語も複雑な数値データもないのに、読むのに存外、時間が掛かった。

 なぜなら、本書に書かれた家庭内でのモラル・ハラスメント(以下、モラハラ)のひどさに、評者は幾度となく何とも言えない不快感に見舞われ、そのつど結婚や家庭、幸福について考えさせられたからだ。

 本書の著者が結婚してから離婚調停に踏み切るまでの19年間、夫から受け続けたモラハラのごく一部を紹介しよう。

 つわりで動けなくなった妻に向かって、夫は「メシも作れないなら堕ろしてしまえ!」と怒鳴った。妻が「今夜何が食べたい?」と聞けば「何でもいい!」と言い放っておきながら、意に染まないおかずが並んでいると不機嫌になり、何週間でも口をきかない。ちょっとしたことで夫はすぐ機嫌を悪くし、その気もないのに「出て行け」「離婚だ」と迫る。あまつさえ、面と向かって「死んでくれないか」と言う。要は、「何様」である。

 著者は、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した「モラル・ハラスメント」の概念をインターネットで知り、自分の苦しみの正体に気づいたという。離婚に至る以前から「モラル・ハラスメント被害者同盟」というサイトを立ち上げ、いまもその管理運営を通して、夫からの精神的暴力に悩む妻への支援活動を行っている。

 本書では、主に自らの体験を例に取りながら、家庭内モラハラとは何か、被害を受けていることにどう気づき、どうやって脱出するかについて論じている。

 セクシャル・ハラスメントという言葉が、日本で新語・流行語大賞の新語部門で金賞(現在は年間大賞のみ選出)を取ったのが、1989年。それから現在に至るまでに、パワハラ(パワー・ハラスメント)、アルハラ(アルコール・ハラスメント)、ドクハラ(ドクター・ハラスメント)など、さまざまなハラスメントが認知されるようになったし、今後もさらに発見されていくかもしれない。

 それらはどれも、自分より弱い立場の人間を追い込み、傷つけて満足する行為である。そうした精神的な嫌がらせ、いや精神的暴力はすべてモラハラの一種である。

 よってモラハラは、夫婦間、親子間、恋人間、上司と部下との間など、どこにでも起こりうる。本書でフィーチャーされているのは夫から妻へのモラハラだが、それに付随する形で、親から子へのパターンもいろいろ示される。

反撃する気分を失わせ、しかも無自覚

 著者の元モラ夫(モラハラする夫)もまた、精神的家庭内暴力ともいえるモラハラの被害者だった。著者に対してこれほど強権をふるっていた元夫も、やはりモラ夫の彼の兄も、自分たちの父親の前では口答え一つしなかった。義母も義姉も、このモラハラ家族の犠牲になっていたのだ。モラハラされていた本人が、無意識のうちに自分もモラハラしてしまうケースは多いと著者はいう。

 さて、そんな苦しさになぜ黙って耐えるのかと誰もが不思議に思うだろう。これはもう言葉巧みとしかいいようがない。加害者は大抵外面がいいので被害者は最初だまされやすい。だが結婚などして簡単には離れられない関係ができてしまうと、豹変するのがお約束。

 モラハラ人間は、常に相手を貶め、非難する。自分が怒るのも不機嫌になるのも相手のせいだと思い込ませ、逆に相手が自分の思い通りに動くと機嫌がいい。厄介なのは、加害者自身に、自分がモラハラしている自覚はまるでないことだ。

 反対に、被害者になる人は争いを好まないタイプが多く、「自分が我慢すればまるく収まる」と考えがちだ。モラハラ人間の怒りは、子ども、さらには店員やタクシー運転手など加害者より立場の弱い周囲をも巻き込むため、その面倒を思うと抵抗する気持ちはさらに失われる。

 一方的に責められ、恫喝され続けた被害者は、徐々にプライドやアイデンティティーを破壊され、いつしか率先して相手の顔色を窺って行動するようになる。そうした一種のマインドコントロール下に置かれてしまうと、支配、被支配の関係が異常なことだと思わなくなってしまう。耐えているのではなく、気づかないのである。そのままうつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したり、自殺に至ることもある。

 モラハラに気づくことができても、そこから脱出するのは容易ではない。

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