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「イモなんかで文明が生まれるか?!」~『ジャガイモのきた道』
山本紀夫著(評:尹雄大)

岩波新書、740円(税別)

2008年6月23日(月)

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ジャガイモのきた道──文明・飢饉・戦争

ジャガイモのきた道──文明・飢饉・戦争』山本紀夫著、岩波新書、740円(税別)

 本書の「はじめに」によれば、ジャガイモは偏見にまみれた作物だったようだ。「イモなんかで文明が生まれるか」と言い放った考古学者さえいるという。ずいぶんな言い方だが、太平洋戦争下、代用食としてイモ、カボチャ類ばかりを食べ、ひもじい思いをした世代の恨みもたぶんに影響しているのだろう。

 だが、それを差し引いても、ジャガイモは分が悪い。世界三大文明の食糧基盤は小麦や米といった穀類に依っていることから、「非穀物農耕や牧畜の生産経済では、一万人以上の人口を一緒に集住させ、生活させることはほとんどまったく不可能」という考えが考古学や歴史学の分野で幅を利かせ、自明とされてきたという。

 本書は、ジャガイモに着せられた汚名を雪ぎ、ジャガイモがいかに人類史に貢献してきたかを明らかにする。

 著者はトマト、ジャガイモ、タバコといったアンデス原産の野生種の調査をきっかけに「穀物唯一史観」とでもいうべき文明観に疑問を抱くようになる。というのも、アンデスでトウモロコシが予想していたほどには大規模に栽培されていなかったからだ。

 インカ帝国に結実したアンデス文明は標高4000メートルに達する山岳部で花開いた。そこは森林限界地帯であり、農作を行う肥沃な土壌も期待できず、トウモロコシの栽培もあまり望めない。

 しかしながら、インカ帝国の首都クスコは最盛期に人口20万人を数え、南アメリカ最大の都市であった。侵略したスペイン人の記録にトウモロコシ栽培の様子が頻出することから、その食糧源はやはりトウモロコシだと考えられた。 

 だが、仔細にスペイン人の記録を追っていくと、彼らの記したトウモロコシ耕地は標高3000メートル以下であったこと。インカ帝国の農耕にとってトウモロコシは酒の材料にする儀礼的な作物であり、主食はジャガイモだったことが明らかになった。

 「イモなんか」で文明が生まれたわけである。

 しかし「イモなんかで文明が生まれるか」には、もうひとつの理由がある。イモは水分を多量に含むため腐りやすく、貯蔵しにくい。また穀類より重量もあり運搬に不便だ。富の集中を阻む作物に根ざした経済では、絶大な権力は生まれない。そう単純に考えれば、イモは文明を生まない式の定義も一般論としては正しいように思える。

 けれど、観念で作物が稔るわけでもなし。イモが文明を生むか生まないかは、イモの育成がその社会に何をもたらしたかを見ないことにはわからない。

18世紀、イモのイメージに転機をもたらしたのは…

 実際、アンデス文明は、イモ文明不毛説の打ち立てられる遥か昔にジャガイモの乾燥貯蔵方法を生み出しており、〈イモ類を長期に保存できるように加工する技術は、アンデス以外ではほとんど開発されていない〉という。

 それだけではない。ジャガイモの原産地であるアンデス文明の面目躍如は、何千年ものジャガイモとの付き合いで、もともと毒性のあったジャガイモを変質させてしまったところにある。

 その因果関係は不明だ。だが、人手をかけ長年に渡り栽培した結果、苦くてそのままでは食べられなかった野生種のジャガイモが、現在のように茹でるだけで食べられる植物へと変化していったことだけは確かだ。

 アンデス文明は毒のあったジャガイモを洗練させ安定して供給できる食糧としたものの、ヨーロッパにより滅ぼされた。ジャガイモはそれを育んだ文明の滅亡とともにヨーロッパへと伝わり、ヨーロッパの食料事情に革命をもたらすことになる。

 とはいえ、ジャガイモの普及はすんなりとはいかなかった。日本語では、「イモ」は野暮ったさを表し、二流の意味合いを持つが、ヨーロッパにおいては、野暮どころか下層階級の象徴であった。フランスでは、ジャガイモが食卓に並べられようものなら「自らの権威が損なわれた」と思われるような代物だったという。

 価値の転換は18世紀に起きた。

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