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「ちょっと鬱ね」と言われるとほっとしませんか~『鬱の力』
五木寛之・香山リカ著(評:朝山実)

幻冬舎新書、740円(税別)

2008年6月24日(火)

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評者の読了時間3時間30分

ジャガイモのきた道──文明・飢饉・戦争

鬱の力』五木寛之・香山リカ著、幻冬舎新書、740円(税別)

 いまの時代は「ちょっと鬱」が正しい生き方だ。と、強く断言されてみて、勇気付けられる人は多いのではないか。

 東京オリンピックや大阪万博に彩られる戦後の高度成長期を「躁の時代」とし、50年間「躁」が続いたあとのいまは「鬱」の時代。50年かけて上ったものは、下りるにも50年かかる。共著者のひとりである五木寛之氏は、山登りにたとえ、「一億総鬱の時代」に適した発想の切り替えが必要だという。

「鬱の力」というと、矛盾したタイトルに思えるが、精神科医の香山リカ氏との対談をまとめた本書は、『大河の一滴』『他力』などで悩める現代人を励ましてきた五木氏の「人生哲学本」の系譜に属する。

 五木氏によれば、「エネルギーと生命力がありながら、出口を塞がれていることで醗酵するものが鬱」。「鬱」は、もともと無気力な人がなるのではなく、前向きな人こそが陥りやすい人間本来の感情で、治療すべき「うつ病」とは分けて考えるべきだという。

 いっぽうの香山氏は、男性の10人に1人、女性は5人に1人が「うつ病」になるといわれていると患者の増加を危惧するとともに、自称「うつ病」患者の問題をあげている。

 「うつ病というほどでもない。時間が経てば回復できますよ」と話しかけても、病院にやって来た人たちは身体の不調を訴え、「では、どこが悪いんですか」と納得しない。医師から「うつ病です」と診断されることで、落ち着く人が増えているのだとか。

「あとはおまかせ」になりたい

 現代人は「病気は治療をすれば治る」と思い込んで、原因のはっきりしない曖昧な状態が耐えられない。それが「鬱っぽい感じ」まで「うつ病」にすることにつながっている。

 患者の特徴について、香山氏はこう言い添えている。

〈ただの「鬱気分です」って言われてしまったら、あとは自分の考え方とか生き方とかに直面して、自分で取り組まなければいけない課題になってしまう。でも「うつ病」ということになれば、病人なんだから「お任せします」と言えば済む。受け身の立場で手当てされたい、ケアされたい、流行り言葉で言えば「癒されたい」っていうこともあると思うんです〉

 患者の増加にともない、ハウツーがなじまない精神医療の現場でも、アメリカ式の診断基準を採用するようになったとか。結果、症例にある状態が2週間続けば画一的に「うつ病」と診断する。朝青龍や安倍前首相の「うつ病」も、そうしたマニュアル診断が関係しているという。

 話はすこし逸れるが、数年前のこと。東京駅での待ち合わせにワタシが大幅に遅れて、友人に「人身事故があってさあ」と迷惑げに謝ると、叱責されたことがあった。人の命を軽んじている、エゴイストだとまで咎められ、深く反省した。

 当時、地方に暮らしていた友人には稀なこと。とはいえ、中央線で鉄道自殺が多いとメディアにとりあげられはじめた頃だ。

 東京暮らしをはじめたその友人と先日、数年ぶりに待ち合わせし、今度は彼が遅れてきた。謝るより前に、友人は憤っていた。「自殺するにしても、ほかの方法を選べないのか。運転士さんのことを考えたらこんなことはできないだろう。満員電車に閉じ込められて疲れきっているうえに、さらに憂鬱になる。やめてほしいよな」。

 いまや飛び込み自殺は中央線に限ったことではない。それを見越して、電車に乗るくらいの余裕が求められる時代になりつつある。事故の車内アナウンスにも、会社帰りの人たちは黙って時間をやりすごそうとするし、ダイヤの復旧作業もスピードアップした。

 ワタシも、どんな人が亡くなったのか、ひとりの人間の死の背景について想像することすらしなくなってしまっている。本書で二人が、景気が回復しようとも一向に自殺者が減る気配にない現況について語っているのを読みながら、麻痺する感覚を、恐いと思うのだ。

 10年連続で、日本の自殺者は年間3万人を超えた。警察庁の調べだと、昨年は3万3093人。うち「うつ病」が原因で命を絶ったのは6060人で、過去最多だという。

 五木氏も、自殺防止には経済的理由や大病に目を向けるよりも、うつ病患者を少なくすることが急務だと訴える。自殺というと借金の取立てなどを思い浮かべがちだったが、それは刷り込みで、ワタシにとって「うつ病」の占める割合がそんなに多いとは想像外だった。

キャラクターを使い分ける

 二人の対話は、こうした自殺防止や遺族のケアの問題をはじめ多方面にわたる。

 「ノスタルジー」というのは「郷愁病」といって、17世紀のナポレオン軍の遠征兵士や、スイス兵たちがホームシックでものを食べられなくなり、伝染病のように死者がでたことからつけられた病名だったとか。中国での「法輪功」の浸透は、病院の診療費の高騰によって、非富裕層の人たちは病気に対し、予防的に養生するしかなくなったからだとか。

 あるいは、「雪景色」を描いた絵画を、日本人は情緒的に美しいものとして眺めるが、ヨーロッパでは「病んだ自然」と受け止める。雨や雪に対する感じ方は国や風土によって違うものだという話。

 ほかにも、人口10万人あたりの自殺者数が日本一だった秋田県が、汚名返上のためにやった取り組みや、「がばいばあちゃん」のヒットの背景から、即身仏信仰、スピリチュアル、死刑の問題にいたるまで、ネタはテンコ盛りだ。

 しかし残念なのは、対談という性格上か、ネタを披露し合うのはいいが、それが伝聞であったり、個々の問題についての言及にやや尻切れトンボ感がある。

 そんななかで面白いのは、対話の緩んだ部分だ。

 五木氏が「香山さんはメガネをかけて、リカちゃんに変身することによって、なにか踏ん切りがつく、ということはありますか」と尋ねる。

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