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絶望よりも反省よりも『拝啓マッカーサー元帥様』
~我々は権力者を信じることで、何かを忘れようとする

2008年6月25日(水)

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拝啓マッカーサー元帥様 占領下の日本人の手紙

拝啓マッカーサー元帥様 占領下の日本人の手紙』袖井林二郎編、岩波現代文庫、1100円(税抜き)

 1945年8月30日、厚木飛行場に専用機で降り立ったダグラス・マッカーサーは丸腰にコーンパイプを口にくわえるといった出で立ちで、悠然とタラップを降りた。

 ポツダム宣言を受諾したとはいえ、降伏文書にまだ調印していない余燼燻る敵地へ降り立つその姿は入念に演出されたものであり、その余裕ぶりは新たな支配者の自信の現れであった。

 以後、約6年に渡り、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の総司令官として、日本に絶大な権力をふるったマッカーサーだが、朝鮮戦争の最中の突然の解任にあたっては、マッカーサーより偉い人間がいることに日本人は驚愕したという。

 絶対的権力者として君臨し、民衆と親しく接することのなかったマッカーサーだが、赴任直後からGHQの奨励もなく、彼宛の手紙が堰を切ったように送りつけられるようになった。重要と思われる手紙は翻訳通訳部隊により全訳され、マッカーサーのもとに届けられた。彼は過密なスケジュールの合間を縫い、ほとんど目を通したという。

 本書は、そんなマッカーサーへの手紙を紹介しながら、当時の日本人の心性を探ったものだ。

 手紙の主は農民から学生、はては元右翼の巨頭でA級戦犯容疑者、公職追放中の政治家、さらには工場労働者、県会議長、教師、医師とその職業、階層を選ぶことはなかった。日本を去るまでの間、マッカーサーに宛てられた手紙はおよそ50万通。そのほとんどがマッカーサーに対する賛美と感謝の声であり、批判は少数だったようだ。

 編者である袖井が実際に目を通したのは、50万通の手紙のうちの1、2%で、本書に紹介されている手紙の内容はといえば、松茸を送るから受け取って欲しい。就職の斡旋を頼みたい。マッカーサー元帥の銅像をつくりたい。村内のもめ事の裁決を願いたい。挙げ句のはてには、原文は存在しないが、「あなたの子供をうみたい」といった内容までがあったという。袖井はこれらの手紙を、マッカーサーへの感謝や贈物、献策といった13項目に分類している。

 つい先日まで日本人にとっては、「鬼畜米英」の象徴だったマッカーサーだが、「世界中の主様であらせられますマッカーサー元帥様」「吾等の偉大なる解放者マッカーサー元帥閣下」「広大無辺の御容相」と、北の将軍様を笑えない綺羅を飾った言葉で称えられた手紙も数多い。

 ところで、占領下のドイツの軍政責任者には、マッカーサーに寄せられたような熱烈な声は聞かれなかったという。

 袖井は日本人の高揚ぶりをこう指摘する。

拝めさえすれば誰でもいい!?

〈権力者と対決することなく一体化するというこの行動様式は、占領期に初めて見られたのではなく、他に逃げ場のない島国日本に、あるいは封建的集落という小宇宙に長い間生きてこざるを得なかった日本民族にとって、ほとんど本能化していたのではないか〉

 たとえば、こういった手紙がある。

「毎日御軍務に御精励の御由承りまして、私共は心より御祝賀申し上げます」「此の様な贈物よいものやら、悪いものやら、若し悪いと御考へ下されればおすて下さい」

 激務の身を案じてのご機嫌うかがいや贈り物に添えた文面には、権力者へのおもねりというには、あまりに素朴な庶民の心根がうかがえ、そのおずおずとした口調は微笑ましい。

 だがしかし、中にはそうしたプレゼントでは真心を表すことにならないと考えたか、このように書き付ける人々もいた。

「日本之将来及ビ子孫の為め日本を米国の属国となし被下度(くだされたく)御願申上候」「私は貴国が枉げて日本を合併して下されることによりてのみ日本は救はれるのであると確く信じます」

 権力者と対峙しない姿勢が袖井の言うように本能なら、そこに善悪是非は問えない。とはいえ、敗北の痛手を直視することなく、傍観者の態度に移行できてしまえるといった、微塵も反省のない態度が何に由来するかは問えるだろう。

〈(日本占領は)自国がしかけたアジア侵略の戦争に敗れた結果に他ならなかった。だから大義は占領する側にあると、ほとんどの日本人ははやばやと納得したのである。その態度を『転向』という言葉で呼んでもいいだろう〉

 積極的に膝下に入ろうとするほどの彼らの感激の出所は、「敗戦直後の日本人が『占領』のイメージを日本軍が中国とアジアで行なった野蛮な占領の経験にもとづいて作りだしていた」。

コメント3件コメント/レビュー

「本書に紹介されているような同胞の熱狂ぶりは、いまとなっては直視したくないだろう。」というところが、全く判りません。当時の時代情勢からは、しごく当たり前のように感じますが。程度は酷いですが、スポーツの勝者への熱狂と、何が変わるのでしょう?ちなみに、小泉純一郎への大衆の「熱狂」は、「権力者と対決することなく一体化するというこの行動様式」であるならば、福田康夫への大衆の「冷淡さ」は、一体何なのでしょうねぇ?この辺りもさっぱり判りません。それに「過去を忘却したい」と言いますが、忘れて欲しくないのは「原罪」だと、はっきり仰れば良いと思いますがねぇ・・・・。(2008/06/25)

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「本書に紹介されているような同胞の熱狂ぶりは、いまとなっては直視したくないだろう。」というところが、全く判りません。当時の時代情勢からは、しごく当たり前のように感じますが。程度は酷いですが、スポーツの勝者への熱狂と、何が変わるのでしょう?ちなみに、小泉純一郎への大衆の「熱狂」は、「権力者と対決することなく一体化するというこの行動様式」であるならば、福田康夫への大衆の「冷淡さ」は、一体何なのでしょうねぇ?この辺りもさっぱり判りません。それに「過去を忘却したい」と言いますが、忘れて欲しくないのは「原罪」だと、はっきり仰れば良いと思いますがねぇ・・・・。(2008/06/25)

レビューにコメントするのも何ですが、この記事を読んで激しい違和感を感じました。それは日本が「言葉を禁じ、文字を奪い、名を改め、収奪を合法とする」ような植民地支配を行ったという記述を、あたかも既定事実のように論じている事です。これは中国、朝鮮の一方的な歴史認識であり、中立ではありません。書籍のレビュー記事でそのような偏った意見にぶつかるとは、残念でなりません。(2008/06/25)

戦後日本人の転向を日本に限って考えるのは、必要以上に「日本人とは」という論調につながり、著者の個人的見解に巻き込まれてしまいがちだ。日本に限らず、敗戦国の国民は転向し、戦勝国と同化したり、フェアな戦いをした自分たちが不公正な戦力や戦術の国に敗れたのだと正当化したりするらしい。これらのことを南北戦争や第一次世界大戦後のドイツもとに研究した「敗北の文化」W・シヴェルブシュなども紹介してほしかった。戦後史が歴史になりつつある現在だからこそ、相対的な広い視野から我が国の歩みを確認する必要があるのではないかと思う。(2008/06/25)

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