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「読んだ」とは言えないけど、「わかった」とは言える~『超訳『資本論』』
的場昭弘著(評:山本貴光)

祥伝社新書、840円(税別)

  • 山本 貴光

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2008年6月26日(木)

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評者の読了時間4時間10分

超訳『資本論』

超訳『資本論』』的場昭弘著、祥伝社新書、840円(税別)

〈教育を受けた若者が、定職もなく街にあふれ、庶民のなけなしの預金は減る一方。景気が伸びても、給料は上がらず、物価だけが上がった。悲しいかな、これが、資本主義の本当の顔である。/『資本論』をいったん遠くに放り投げた日本人は、いま再び拾い上げ、ページを開く必要に迫られている〉(本書見返しより)

 どうしていまさらそんな古臭い本を読もうというのか。なにしろ第一巻があらわれたのは1867年のこと。だが、残念ながらこの書物は、いまなお新しい。なぜなら、資本主義が、経済成長や富を生み出す一方で、それと裏腹に搾取や貧困を生み出し続ける限り、そのカラクリを見抜こうとする『資本論』もまた意義をもつからである。

 それならさっそく読もうじゃないか。と言いたいところだが、困ったことにこの本、お世辞にもとっつきやすいとは言えない。

 まずその分厚さ。現在手軽に手に入る岩波文庫の邦訳書は全九分冊ときている(原書でも全三巻の大著)。小説で言えばプルーストの『失われた時を求めて』やトールキンの『指輪物語』くらいはあろうか。

 加えてその文章。たとえば、

〈交換関係は、まず量的な関係として、つまり、ある使用価値がほかの使用価値と交換される比率として、時と場所によって絶えず変化する関係として現われる。だから、交換価値は、何か偶然的なもの、純粋に相対的なものである〉(p.53)

 と言われても、前後を読んだからといってにわかに得心できるようなものではない。

 マルクス自身も序文で、「何事も初めがむずかしい、という諺は、すべての科学にあてはまる」だなんて言っている。つまり『資本論』も最初は難しいから覚悟せよということだ。それだけに「私はむろん、何か新しいことを学び、したがってまた、自分で考えようと志す読者を想定しているのである」と、少し挑発的に読者を激励してもいるのだが。

 というわけで、『超訳『資本論』』(以下『超訳』と略記)である。著者の的場昭弘氏は、これまでに多数のマルクス関連書を書いている手練のマルクス読み。従来の的場マルクス本は、もっぱらマルクスの思想を、現代の私たちがつきつけられている難問に「応用」するものだった。それに対して本書は、マルクスが書いたことそのものを読んでみようという趣向である。

資本が価値を増やすやり方を、商品から分析する。それが資本論

 書名に見える「超訳」は、シドニー・シェルダンのアレとはちょっと違う。『資本論』第一巻全体から、マルクスの文章を交えつつ論旨を要約し、そこに解説を加えるというスタイルを採る。例えば上記の「交換関係」云々の引用部分は、資本主義の基礎となる「商品」の価値を分析した重要な箇所だが、著者は引用に続けてこんなふうに解説する。

〈二つの商品を交換するとき、その価値がそれをもっている人のお互いの妥協で決まるとすれば、交換比率は時と場所による偶然で決まります。だから交換価値になにか決まった量が隠されているなどと考えるのはおかしい。まさに表面上この関係で見えるものは、偶然に左右されているということだけです。しかし、はたしてそうか。そこには何かつなぐものがあるはずである。これは価値ですが、その価値とは何か、それをどう導出するかが問題です〉(p.54)

 マルクスの議論は、縦横無尽に展開され、注意深く読んでいても理路を見失うことがしばしばだが、このように勘所を押さえながらその道筋を確認するため、「迷子」になりにくい。

 もちろん、そうはいっても引用されている原文の量は、原典の第一巻全体からすればほんの一部。だからこれをもって「『資本論』を読んだ」とは言えないまでも、この本が何を問題として、それをどのように分析してみせようとしているかという発想と手つきのエッセンスはわかるように作られている。後に述べるようにこれは大事なポイントだ。

 また、マルクス主義や特定イデオロギーの強烈なバイアスがかかっていたり、マルクスを絶対視するような教条主義的な読み方とは無縁に、「『資本論』の魅力を味わっていただくための、『資本論』入門」(p.3)として書かれていて、その距離の取り方は好ましい。

 ところで『資本論』の課題は、資本がいかにして価値を増大させるかという「謎」の解明にある。どのように解明するかといえば、〈資本主義社会の細胞は商品である。だからこの商品を分析することで資本主義そのものがわかる〉(p.52)という寸法。水や食糧や燃料から貨幣や人体部位や温暖化ガスの排出権まで、あらゆるものが「商品」として売買されてこの社会が回っている実情を鑑みれば、この着眼も頷けるだろう。

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