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暮らしを続ける中にこそ商機が~『里山ビジネス』
玉村豊男著(評:荻野進介)

集英社新書、680円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年7月2日(水)

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里山ビジネス

里山ビジネス』玉村豊男著、集英社新書、680円(税別)

 東大仏文卒のパリ帰り、旅行や食に関する造詣が深く、おまけに画才もある。現在は長野の丘陵地帯に居を構える人気作家が始めた、自称“素人商売”成功の秘訣を説いたのが本書だ。

 同じく集英社新書から昨年刊行されたのが『田舎暮らしができる人 できない人』。軽井沢で軽い田舎暮らしを営んでいた、東京生まれ東京育ちの玉村夫婦が、夫の病気をきっかけに農業に目覚め、酒造免許を取得しワイナリーを設立。さらには自家作の野菜を食べさせるレストランまで開店してしまう。その過程で見えてきた、田舎暮らしの魅力と極意を綴った内容である。

 それを下敷きにして書かれたのが本書だから、タイトルは「田舎ビジネス」でもよさそうだが、そうはならなかった。「田舎暮らし」は言葉としてさまになるが、ビジネスと合わせると、ちょっとお洒落じゃないからだろうか。

 ここでいう「里山ビジネス」とは、上記のワイナリーとレストランはもちろん、そこに野菜やブドウを供給する農園から、食卓デザインに関わるオリジナルグッズを販売するショップの経営までを総称した言葉だ。

 標高850メートル、熊が徘徊し、バスも通らない辺鄙な場所にあるにも関わらず、2004年4月のオープン以来、毎年5万人が訪れ、5月の連休と8月のランチ時には行列ができる。レストランに限っては単年度で黒字達成というからすごい。

 もともとはワイナリーが出発点だった。趣味ではじめた畑で収穫したブドウを近くの醸造所でワインにしてもらっていたのだが、いつしか収穫量が増え、飲まれない死蔵ワインが増えていく。ちょうどそこに大手企業によるワイナリー創設計画が持ち上がる。それに参画すべく、自前の技術者を育てるなどの準備をしていたのに、あえなく計画が頓挫。折角だから、と、無謀を省みず、ワイナリー創業プロジェクトを個人で立ち上げたのだった。

 玉村がそこまでワイナリーにこだわったのは、ブドウを育てワインを作るという仕事の意味と、ワイナリーという施設が地域に与える価値に気づいたからだった。

続けることが農業の意味、日々の働きの中に観光がある

 ワイン作りに長い年月が必要だ。ブドウの木の寿命は人間とほぼ同じである。さらに、できたワインは長い時間をかけて熟成させるほどうまくなる。玉村が今の地で最初に植えたブドウの木が2041年に50歳になるそうだが、そのブドウを使って仕込んだワインを20年寝かせて飲むとなると、木を植えてから、ワインの一滴が人の喉を潤すまでのサイクルは実に70年。

 ワイナリー創設を考えた時、玉村が最初に抱いたのは自分の死後、見も知らぬ若者が自分のブドウ畑で働いている光景だったという。ワイナリーの経営とは、世代を超えて渡されるバトンのようなものなのだ。

 玉村が書いたワイナリーの設立趣意書にこうある。

〈農業は続けることに意味がある。その土地を絶えず耕して、そこから恵みを受けながら、人も植物も生き続ける。(中略)ワイナリーを中心に地域の人が集い、遠方から人が訪ねて来、そこでつくられたワインや果物を媒介にして人間の輪ができあがる。それが来訪者を癒し、地域の人びとを力づけ、双方の生活の質を高めていくことにつながるだろう〉

 一般的に、ワイナリーは初期投資が莫大なうえ、利益が出るまでに時間がかかる。赤字を補填するための附帯事業として、玉村がレストランを設けるのは成り行き上、必然だったが、そうした計算よりも、まず「自分たちで作った採れたての野菜を食べてもらいたい。しかもやれば必ず当たる」という確信があってのことだった。

 面白いのはワイナリーとレストラン事業の基本コンセプトである。野菜とブドウの栽培や、パン、ワイン、料理作りといった、すべての作業を来客者に見てもらおうという目論見で、各施設を設計したのだという。

 その着想のベースとなったのは、タイの人気観光地、チェンマイにあるリゾートホテルだった。そのホテルは部屋からの眺めによって宿泊料が違っていた。ライステラスビューとマウンテンビューの二種類があって、前者の料金のほうが高い。玉村は実際に、水田を眼下に見るライステラスビューの部屋に泊まってみた。

 手前の田んぼには、水浴びする水牛がいて、その横に鋤を手にした老人がいる。その向こうでは華やかな民族衣装をまとった女性が草取りをしている。玉村は、ワインを飲みながら、いい気持ちで、この光景を眺めていたそうだが、突然、ある仮説がひらめいた。美しい風景を演出している彼らは、このホテルの従業員ではないか、と。

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中村 克己 元ルノー副社長、前カルソニックカンセイ会長