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戦国大名は生き残るために環境を意識した~『軍需物資から見た戦国合戦』
盛本昌広著(評:尹雄大)

新書y、780円(税別)

2008年7月7日(月)

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軍需物資から見た戦国合戦

軍需物資から見た戦国合戦』盛本昌広著、新書y、780円(税別)

 たとえば、「大坂夏の陣」のクライマックスを思い返してみる。

 その日、三途の川の渡り駄賃である六連銭を染め抜いた指物は将の背に片々と翻り、武田家伝来の赤備えの具足で固めた真田幸村率いる一隊は、吶喊とともに家康の首級ただひとつを挙げるため、遮二無二、茶臼山の本陣へと押し寄せた。

 家康を守る旗本は槍でさんざん突き崩され、恐慌をきたした家臣たちは主君を捨てて逃げ去る始末。本陣をかためる楯も柵も引き倒され、陣幕は土まみれとなった。挙げ句、総大将の馬印までが倒されたのは、武田信玄に惨敗した三方ヶ原の戦い以来であったという。

 この乾坤一擲の模様、明軍に「鬼石曼子(鬼島津)」と恐れられた島津の家臣をしてこう言わしめた。

「真田日本一の兵(つわもの)」と。

 小説や講談で繰り返し語られてきた、手に汗握るシーンである。だがしかし、歴史は決してひとくさりのロマンで語られ尽くされはしない。冷静に現実を点検してみよう。

 真田隊の旗指物は何でできているのか? 槍や楯や柵は誰がどうやって調達したのか? それらはすべて竹や木でつくられたものだ。

 そう。腹が減っては戦はできぬというが、その飯を炊くにも薪が必要だ。ロマンも結構だが、森林という下部構造なくして戦はそもそもできないのだった。

 著者いわく〈森林資源をいかに活用するかが、合戦における勝敗を左右すると言っても過言ではなかった〉

 本書は槍や鉄砲、陣地の柵、城砦といった大量の軍需物資がいかに森林に依存しており、戦国大名はその確保に奔走していた様を描き出す。

 当時、国力は石高(米の生産量)で表わされたことは一般的に知られている。そこで稲作の面積を増やしさえすれば、国は富み、人は増え、中原に覇を唱えることができると思いがちだ。大河ドラマでも、国力増強といえば領民総出の開墾シーンがよく登場する。

 食糧はむろん欠かせない。だが、戦略上の要所に城や砦を築くには、尺木という頑丈な防御柵、強靭な塀をこしらえなくてはならない。それには良材がいる。

木材を規格化、調達システムも整備した北条氏

 戦を繰り返すごとに大量の材木を調達する必要があった。つまり領国の存亡は米だけではなく、森林にかかっていたのも確かなのだ。

 それだけに戦国大名は森林資源の確保に心血を注ぎ、領国内の森林の植生を把握し、土地の有力者や村民を徴用しては、用途に応じ木を伐採していた。

 関東の覇者となった北条氏の場合、拠点の城郭の塀の厚さを24センチと規格化し、男柱には「堅く長持ちし、腐りにくい」栗を使うよう指示していたという。栗は建材として優れているだけでなく、食料にもなれば、薪や炭にも使える。しかも伐採した根元から自然に再生する性質があるとなれば、重視すべき資源だったというのも頷ける。

 北条氏は木材の徴発にあたっては、朱印状という公式文書を発行し、山林の伐採や製材に携っていた集団「山造」に部材の本数と木の種類、寸法を細かく発注し、人夫の数まで指定することもあった。城郭に必要な物資を必要なだけ期限内に確保するシステムが整備されていた。

 だが、物資の確保とは、換言すれば資源の収奪に他ならない。栗のように自然再生する樹木ならまだいいだろうが、植林もせずに伐採を続ければ次第に山は荒れていく。

 近年、地層に含まれている花粉の分析により、中世から戦国期にかけて日本の森林の植生が変わり、松が増えたことがわかったという。

 特に赤松には「樹木が伐採されて更地となった場所にいち早く生え始め」る性質がある。したがって松の増加は、山林を乱伐し、しかも伐採地の管理を怠っていたことを示している。

 エコロジーへの関心の高まりから、近代以前は環境循環型社会だったと、古に理想を見出す人もいるが、おおむね戦争のなかった江戸期はともかく、戦国期はどの大名も軍拡路線まっしぐらに突き進んだ時代であり、鉄の増産、城郭建築ラッシュと環境破壊型の社会であった可能性は非常に高い。

 なにせ戦国期の日本は、鉄砲所有量が世界一だったという。鉄をつくるにも大量の木を必要とする。

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