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素直な気持ちで「サヨナラ・サヨナラ・サヨナラ」~『淀川長治の映画人生』
岡田喜一郎著(評:山本貴光)

中公新書ラクレ、880円(税別)

  • 山本 貴光

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2008年7月8日(火)

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評者の読了時間2時間40分

淀川長治の映画人生

淀川長治の映画人生』岡田喜一郎著、中公新書ラクレ、880円(税別)

「それでは次週をお楽しみください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

 いつの頃からか、私にとってテレビで映画を観るということは、ブラウン管の向こうから独特の口調で語りかけてくる黒縁メガネのおじさんの存在と切り離せないものになった。

 「日曜洋画劇場」のはじめとおわりに登場するこの男、決まって背広にネクタイをしめて、ポマードで髪をなでつけ、少し前のめりな感じがする座り方で現れる。サヨナラおじさん(もう少し古くはニギニギおじさん)こと淀川長治(1909‐1998)である。

 わずか数分のあいだに、映画の見どころをじつに躍動的な語り口で紹介し、合間合間に出演俳優の代表作や、監督の他作品などの情報をちりばめることも忘れない。

 それも高踏的に知識をひけらかすのではなく、あくまで映画の楽しみを伝えて共有しようという姿勢が一貫している。そのためか、映画を観た後に、内容は忘れてしまっても、淀川さんの解説だけが脳裏に残っているなんてことも多々あった。うれしいことに、その名解説だけを50本分収録したDVD『日曜洋画劇場 40周年記念 淀川長治の名画解説』が2006年に発売されており、いまでもあの絶品の話芸を心ゆくまで堪能できる。

 本書は、この稀代の映画批評家をスケッチした肖像画のような書物である。著者は、淀川長治と交流があった映像作家・岡田喜一郎氏。

 その生涯についてなら『淀川長治自伝』(中公文庫)があり、その鋭い映画評なら山田宏一、蓮實重彦との鼎談『映画千夜一夜』(中公文庫)や『男と男のいる映画』(青土社)をはじめとする著作がある。では本書の読みどころはどこにあるのか。

 それは、身近に交わった者の視点から淀川さんの生きざまをざっくばらんに点描するところ。

本当にものすごいのはシーンの記憶力

 淀川さんといえば、やはり、なにはともあれその映画愛、映画語りのすさまじさであろう。例えば、岡田氏が構成・演出していたテレビ番組で、淀川さんにチャップリンの「黄金狂時代」(1925)の冒頭を解説してもらう場面でのこと。

 このとき岡田氏は、淀川さんには「フィルムを観ないでカメラに向かってしゃべってもらった」という。ちょっと長いが、その語りを引用する。

〈チャップリンはリュックサックを持って崖のところを通っています。雪の中を。下は断崖絶壁。そこをチャップリンがユーコンからクローンダイクへ。山の中をずっとひとりで行きおる。後ろの景色。前、見ていません。おもしろいファーストシーンです。おもしろいなあ。あのチャップリンの歩き方がおもしろいなあ。見ていますと、後ろから大きな熊がチャップリンのあとをつけました。怖い。怖い。ガブッと噛まれたら死んじゃう。チャップリンは全然、知らない。歩いています。歩いています。歩いています。おもしろいなあ。ずーっと熊が後ろからついておる。ところがあるところで横にそれちゃった。チャップリンはひとり歩いている。これがファーストシーン〉(p.33)

 いかがだろう。脳裏であの声がよみがえった読者もいるかもしれない。

 上記のとおり、これは映像を見ながらではなく、記憶による解説だ。もしこの作品をご覧になったことのない方は、映像(該当箇所は2:30辺りから/リンク先は2008年07月05日現在)を観ていただきたい。

 淀川さんの語りをフィルムと合せてみたところ、およそ40秒のシーンにぴったりと合ったというから驚倒する。

 どうしたらここまで映画を記憶することができるのか。変な言い方になるが、その難しさなら簡単に実感できる。試しに「黄金狂時代」を観た直後、映画について思い出せるかぎりをノートなりに書いてみよう。きれぎれのカットは浮かぶものの、とてもとても淀川さんのようにはゆかない。

 著者はその記憶力について、こんな想像をしている。

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