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それは「普通」が決まっていたころ~『シェーの時代』
泉麻人著(評:朝山実)

文春新書、840円(税別)

2008年7月9日(水)

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評者の読了時間4時間00分

シェーの時代──「おそ松くん」と昭和こども社会

シェーの時代──「おそ松くん」と昭和こども社会』泉麻人著、文春新書、840円(税別)

「シェーって、知ってますか?」

「ええ、まあ」

「やれる?」

「……こうかなぁ」

 30代のKさんは、右手を頭上にかかげ、曲げた左腕を胸のあたりで水平にしながら、右足を思い切り跳ね上げた。静止しようとして、身体がぐらぐらしている。

 ワタシの視線が気になったのか、「あれ、違ったかな」と、手と足を逆にした。

 「おそ松くん」の漫画もアニメも見たことはないという彼は、イヤミのことを「さんまさんみたいな人でしょう」。

 子供のころ、Kさんは両親のアルバムで「シェー」を見た記憶がある。若々しい両親やその友人たち誰も彼もが、この奇天烈なポーズをして写っていた。奇妙な光景だけに、よく覚えているという。

 出っ歯のイヤミの実物や、チビ太のオデンを目にしたのは、それからずいぶんあと、テレビのCMでだったらしい。

 「じゃ、あさま山荘事件はわかる?」と問うとすかさず、「大きな鉄球でしょう」。

 72年にはまだ生まれていなかったが、テレビの特番の繰り返しで刷り込まれてしまったそうだ。そんなKさんに本書を差し出すと、「ふふ」とか「へぇー」とか「ふぅーん」とつぶやきながら、しっかり本を手にしている。

 本書は、昭和のレトロ探偵の第一人者が、高度成長期にブームを巻き起こした赤塚不二夫のギャグ漫画がどのように時代とリンクしていたのかを、作品の中に描かれた風俗、世相とともに解説したものだ。

 六つ子が主人公の「おそ松くん」の連載が「少年サンデー」でスタートしたのは、昭和37年(1962年)のこと。ワタシは生まれていたが、さほど熱心な読者でもなく、どちらかといえばテレビアニメの記憶しかない。

 当時は「少年サンデー」と「少年マガジン」が週刊少年漫画を代表する二大誌で、ワタシが隠れて買っていたのは「マガジン」。イトコがたまに買っていた「サンデー」と、コソコソと交換していた。オカンに見つかれば、没収された時代である。ちなみに、同じギャグ漫画でも、はげ頭の父親に存在感のある「丸出だめ夫」のほうが好きで「マガジン」を買っていたんだということを、この本で思い出した。

野球は巨人、冷蔵庫には三ツ矢サイダー

 懐かしいといえば、本書の冒頭では、“当たり”が出たらプロ野球12球団の球団旗のメダルがもらえる仁丹「野球ガム」や、棒に“ホームラン”が焼印されていたらもう一本の「名糖アイスクリームバー」など、「おそ松くん」をとりまく情景が紹介されている。

 男の子は全員野球が好きで、女の子はママゴト遊びをするものだ、と大人たちが決めつけていた時代だ。いまならサッカーと野球どっちが好きか、聞いてみないとわからないし、「フツー」と答える子供がいたりする。いろいろ好みが分かれていて当たり前だが、あの頃はというと、そう、仁丹のメダルだ。

 ワタシが最初に手にいれたのがツバメの描かれたメダルで、夏休みに「キミは、どこのファンなんや」と問われ、「国鉄スワローズ」と答えたら、おもいっきり「変わってんなあ」とからかわれた。実は、ツバメの球団の選手は誰一人知らなかった。野球なんぞまるで興味ナシで、万年最下位のお荷物チームを好きだといったからだ。

 笑ったオジサンが巨人ファンだったので、以来いまだにもってアンチ巨人を通している。まあ、そんな取るに足らないことはよろしい。

 本書は、昭和30年代から40年代までの忘れかけた世相を振り返るには、打ってつけだ。「三丁目の夕日」の世界を詳しく知りたい若い読者にとっても。

 たとえば、六つ子の母親がお客さんにサイダーを出そうと冷蔵庫を開けると、かちんこちんになったおそ松が、コテンと出てくる。冷蔵庫に隠れるなんて、いまなら出来の悪いコントだが、あの時代には原っぱに廃棄されていた冷蔵庫に子供が入り込んで窒息死する事故が相次いだものだ。

 「三種の神器」とまでいわれ、電気冷蔵庫がステータスだった頃、お客さんに出す「なにか冷たいもの」といえば、冷えた三ツ矢サイダーと決まっていた。活気はあったが、選ぶのに迷うほど豊富にモノがあった時代ではなかった。

 ほかにも、チビ太といえば串のオデンなのだが、そのチビ太がこっそり早朝、宅配牛乳をかっぱらって飲んでいる。そのワンシーンから、「牛乳箱」の中に空き瓶が混じっていたりすると、我が家の大黒柱が朝から不機嫌だったのを思い出した。やたら、思い出すことの多い本だ。

 ひとつ、発見したことがある。

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