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門外漢にも面白く、そしてとても文学的~『電車の運転』
宇田賢吉著(評:栗原裕一郎)【奨】

中公新書、840円(税別)

  • 栗原 裕一郎

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2008年7月15日(火)

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評者の読了時間4時間00分

電車の運転──運転士が語る鉄道のしくみ

電車の運転──運転士が語る鉄道のしくみ』宇田賢吉著、中公新書、840円(税別)

 単刀直入。タイトルで釣ろうという思惑が溢れすぎてかえって個性がなくなっている最近の新書戦線をわらうような、これ以上はないほどにシンプルなタイトルだ。

 内容を端的に表わしているという点でも過不足がない。本当にもう丸々一冊、頭から終わりまで「電車の運転」についてのみ書かれた本である。

 著者の宇田賢吉は1958年に国鉄に入社、JRに改編されたさいにJR西日本に移り、2000年に同社を退社するまで42年間、運転士を務めた人物。

 鉄道という輸送機関が動く仕組みから、運転技術の解説と実践的なノウハウ、運転士という職業にまつわる問題や心構えまで、「電車の運転」を取り巻くあらゆることがらが、運転士という実務家の視点から細大漏らさず記されている。

 鉄ちゃん(鉄道マニア)には堪えられない一冊だろうことは想像に難くないが、評者は実を言うと鉄道にはほとんど興味がない。都内に住んでいればいろんな種類の電車を見るけれど、それが電車である、という以外には何の感慨も持ったことがないくらいの鉄道音痴だ。

 にもかかわらず、この本は面白かった。本年度の新書ベスト10を挙げろといわれればまず間違いなく入る。それくらい面白い。

 評者の読み方は、鉄道マニアからすれば見当外れもはなはだしいに違いないだろうが、本書は、それを許す懐の深さを持っているということである。

 目次を見るだけでも、本書がいかに微に入り細をうがっているか、何となくイメージされるだろう。

 たとえば第3章は「走る」ことだけをテーマにした章だが、「ノッチオフと運転時間」「惰行」「運転途中での停止」「運転士と乗務線路」「走行抵抗」「速度制限」「ランカーブ」「電力が電車に届くまで」とじつに8項目から構成されていて、ところによってはさらに複数のサブ項目に分割されていたりする。

詳細だが無味乾燥ではなく、思い入れが溢れてもいない

 わずかなディテールをもおろそかにしない綿密な記述は、そのまま新人運転士のテキストに使えるんじゃないかと素人ながら考えてしまうほど実践に即したもので、レトリックで飾ったり、思い出にふけったり、精神論を振りかざしたりするところがまったくない、キャリアとプライドに裏打ちされた乾いたものである。

 しかし、この緻密さは、懇切丁寧が仇となった実用書の煩雑な細かさとは性質が異なっているように思える。

 第4章「止まる」から、ブレーキの技術に関する部分を引いてみよう。

〈最後に直前緩めが待っている。ブレーキ開始のときと同じく衝動を避けてソフトに停車するテクニックである。

 ブレーキを使用したまま停車すると、減速度が一気に0となるためガクンと衝動が発生し、乗客に不快感を与える。状況によって不快感では済まず乗客が転倒することがある。

 理想論としては、停止直前にブレーキを順次緩めて減速度を低下させ、停止と同時にブレーキ力が0となれば衝動を0とすることができる。古い形式では停止直前に緩めてしまい、動作遅れによって緩みきる直前の状態でフワリと停車する方法があった〉

 客観的な記述に見えるがそうではない。ここに書かれているのは著者の経験である。技術がたんにマニュアル的に伝えられているのではなく、積み重ねた経験から導き出された著者個人の見解が、技術論というかたちで述べられているのだ。過去に触れた最後の一文が、この記述が歴史の厚みに支えられたものであることを裏づけている。

 そういう「歴史の厚み」は、テクノロジーを解説した部分にさえ滲んでいる。たとえばモーター制御の方式として現在一般的なVVVF制御を解説した箇所はこんなふうに書かれている。

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