「養老孟司先生のタケシくん虫日記」

ラオス再訪 その6 ラオスの田舎で『地球環境問題」を考えてみる

バックナンバー

2008年7月16日(水)

1/3ページ

印刷ページ

人が少ないのはいいことである

 ラオスの人口は、ほぼ六百万人。隣の二つの大国、ヴェトナム、タイと比較すると、十分の一以下である。なるほど居心地がいいわけ。人が有り余った現代では、国土に余裕がある国に属する。

 ヴィエンチャンから北に二十キロほど移動して、山の上から見ると、遠くの山並みに至るまで、なんと人工物が一つも見えない。見えるものは、ただ樹木と地面ばかり。こういう経験はほとんど生まれてはじめてではないか。カメラマンの柳瀬さんが同じことを述懐していた。

人口600万人のラオスの風景

人口600万人のラオスの風景

 ブータンも好きだが、ここはさらに十分の一近い人口しかない。人口八十万、面積は四国と九州をあわせた程度。福岡市にもならない人口が、その範囲に広がっていたら、いくら山がちでも地面に余裕がある。

 70年頃に、オーストラリアに留学していた。当時のオーストラリアの人口は八百万、それがいまではほぼ三倍に近い。

 考えてみれば、私は人が少ないほうに行くクセがある。日本人だから、そういう場所にあこがれるのか。

 可住面積あたりの人口密度は、日本は明らかに世界一である。つまりは人が多すぎる。それでも暮らしていられるのは、それなりのノウハウを社会的にしっかり築いてきたからである。それには江戸時代という閉鎖環境がきわめて有効だった。世間の常識というものを作り出したのは、江戸時代である。モッタイナイという言葉が、それを代表している。アメリカ英語に入れたい言葉の一つではないか。

 江戸末期には、日本の環境資源は限度に達していた。だから開国すると、とたんに人口が激増する。文明開化にはそういう意味があった。海外から資源が流入したのである。

 神戸の六甲山は、江戸の末期には禿山である。いまは新幹線のホームにまで、樹木が伸びてきそうな勢い。これは石油のおかげで、樹木を伐採しないで済むからである。文明開化は環境を破壊したが、他方では森林を維持してくれた。ラオスの焼畑を見ていると、しみじみそれを感じる。石油が無くなる世界では、森はどうなるだろうか。エネルギー問題は環境を維持するための最大の課題である。温暖化なんて、エネルギー問題の副産物の一つに過ぎない。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント2 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

養老孟司(ようろう・たけし)

養老 孟司

解剖学者/作家/昆虫研究家

1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。先生が愛してやまない昆虫の本は当社より『私の脳はなぜ虫が好きか?』『養老孟司のデジタル昆虫図鑑』が刊行中。

『私の脳はなぜ虫が好きか?』


 『私の脳はなぜ虫が好きか?』(日経BP社)



『養老孟司のデジタル昆虫図鑑』


 『養老孟司のデジタル昆虫図鑑』(日経BP社)


 【日経BPネット掲載】
 養老孟司のデジタル昆虫記




このコラムについて

養老孟司先生のタケシくん虫日記

本コラムは、『バカの壁』などで知られる養老孟司先生のライフワークである、「虫」についてのあれこれを、つれづれなるままにつづった、いわば「虫ブログ」です。激務の合間を縫って、日本国内はもとより、世界中を旅しながら、いろいろな虫を捕まえ、箱根の別荘兼研究所で標本にし、写真を撮り、電子顕微鏡で眺め、そして考える。そんな養老先生に仕事の手を休めて、ちょっとお付き合いしてみませんか?

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン