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『この「社則」、効果あり。』柳澤大輔著、祥伝社新書、760円(税別)
このあいだ、テレビで「匠」といわれる設計士が、限られた予算の中で、施主の無理難題をかなえるという番組をやっていた。こうしたドキュメンタリーっぽい番組が好きでわりと見るのだが、「なんて押しがつよいんだろう、この夫婦。こだわりファションばっちりだし、仕事は何?」とテレビに食いついたことがある。
すでに土地の取得に資金の大半を使い果たし、三十代の二人は建築にまわす余裕がないという。
「匠」は、予算内に収めるべく、希望変更を求めるものの、二人は頑として、このウッドデッキだけは譲れない、「夢だったから」の一点張り。予算オーバーは必至の状況で、これでは家が建たない。けれど二人しての「お願いします」の拝み倒しに折れたのは、匠のほう。もちろん夫婦は、大喜び。
夢をあきらめないのは、いいことだが。そのぶん、しわ寄せはどこかに出るものだ。ムリムリのコスト削減のトバッチリは当然、現場に波及するはずで、職人の顔色は……。
番組としてはメデタシメデタシの展開だが、匠の窮余のプランはなんと床をベニヤ板にするという仰天ものだった。
さて、前置きが長くなったが、モノの考え方は様々、世間にはいろんな会社があるものだと知ることができるのが本書である。
ペットが亡くなったときの「忌引き休暇」を認めているのが、日本ヒルズ・コルゲート。社員規則に明記されているそうだが、ペットフードの販売をメインにした会社だと聞くと、ああ、なるほど。
一日の忌引き休暇だけでなく、弔慰金も支払われる。おまけに、ペットの数にあわせて「扶養手当」まで支給されるという。
社内というより、PR用?
あるいは、女性向けのクチコミ・マーケティングの会社では「失恋休暇」制度が設けられているとか。
「25歳未満の社員は年1日。25歳以上30歳未満の社員は年2日。30歳以上の社員は年3日」で、年齢が上になるほど休暇の日数が増えるのは、年齢と傷心の度合いは比例するとの解釈らしい。
ちなみに、社員思いのせっかくの制度だが、これまで休暇を申請した人はいないらしい。
そりゃそうだろう。申請すなわち、失恋をふれてまわるに等しい制度である。たかが、数日の休暇と引き換えに、公言できる豪傑な人はそうはいないのでは。
ほかにも、「社員は、本名でなくビジネスネームを用いること」「有給休暇を消費したら、ご褒美に10万円!」「課題図書を読めば、報奨金を支給する」など、変わった「社則」ほど、宣伝効果もあって良いという著者の論には納得だ。失恋休暇にしても、会社のユニークさを対外的に訴えるのが狙いなのだろう。
著者は、「面白法人カヤック」の社長。インターネットサービスの制作や運営をする会社で、社名の由来は創立メンバー(学生時代の友人)3人の名前の頭文字をつなげたものだという。
「普通の会社じゃ、つまらない」がモットー。会社にも「個性」が必要だと、著者の会社でも数々のルールが生まれた。
そのひとつが、「サイコロ給」である。
朝山さん、いつも素晴らしい書評をありがとうございます!今回は、この本、買わないだろうな。。。(2008/07/26)