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ラオス採集記 パート2 その1

2008年7月23日(水)

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 五月三十一日から、またラオスに来てしまった。今回のメンバーは私を含めて三人、中里俊英、小桧山賢二の御両名。中里さんは甲虫一般、小桧山さんは画像が専門、それもゾウムシのみごとな画像を作る。

小桧山さんの著書 「虫をめぐるデジタルな冒険」

小桧山さんの著書 「虫をめぐるデジタルな冒険」

 すでに紹介したことがあるが、小桧山さんの画像は、説明するより、見たほうがいい。要するに全体にピントがあった虫の写真だが、これはコンピュータで合成するしかない。小桧山さんはその専門家なのである。

 虫は小さいから、もちろん画面で見れば、かなりの拡大になる。その迫力に加えて、全面にピントが合っているから、細密画のような印象を同時に受ける。こうした画像が普及すれば、世間のものの見方もかなり変わるかもしれない。
 精密に見た虫の世界は、驚きに満ちている。じつに凝った美しさである。しかも構造の詳細を見ると、こんなものがどうしてできて来るのかという、いわゆる自然の驚異を感じる。「神は詳細に宿る」。

 それはともかく、またまたラオス。若原君の一行には、今度は大学院生が二人、加わっている。愛媛大学の山迫君と、北大の蓑島君。山迫君はカミキリ、簑島君はガムシ。全員で六人だから、前回とあまり変わらない。虫採りの大集団である。
 行く先は若原君次第、六月一日ヴィエンチャンを出て北へ向かった。北には前回も行ったヴァンヴィエンがある。そこを通り越して、かつてラオスの首都だった古都ルアンプラヴァンに向かう。地図上では全行程364キロ。

 むろん一日では行けない。虫採りなんていう、余計なことをするからである。途中、サラプクンで一泊。ここは地図にはプークーン Phou Khoun とあるが、実際には前に Sala がつくという。ラオスの地名は日本ほど固定しておらず、まあ通称とでもいうべきか。

 おかげでこちらは迷う。同じ地名も多い。今回のルート沿いにも、地図で見るとポンサヴァンがある。前回行ったポンサヴァンは、シェンクアン省の中心地だが、今回通るポンサヴァンは、それとはなんの関係もない。

 町や村の名前がどのくらいいい加減かというと、前回滞在したムアン村は、Ban Muang で、Ban は村、Muang は町である。日本にも町村さんは確かに居るが、地名としては変ではないか。15キロ村なんていうのも、ふつうにある。どこから15キロなのか、近所の人しかわからない。新村、Ban Noi も多い。

 町村も新村も日本では苗字になっている。明治時代に急いで苗字をつけたから、こういうことになったとすると、ラオスの地名も、フランス人が入ってきたときに、急いでつけたのかもしれない。それ以前はいろいろな名前で呼ばれていた可能性もある。同じ村を、あっちではこう呼び、こっちではああ呼ぶ。自分たちはそれとは別に、俺村と呼んだりしていたかもしれない。ラオスの柳田國男に聞くしかあるまい。

 ルアンプラヴァン、若原流の現地発音だとルアンパバンに向かう道は、途中サラプクンで二つに分かれる。北に行けばルアンプラヴァン、東に行けばシェンクアン省のポンサヴァン。

こちらが最初に宿泊したプクン・ゲストハウス

こちらが最初に宿泊したプクン・ゲストハウス

 サラプクンで当てにしていたホテルは、ただいま建設中。できあがってないのに、泊るわけに行かない。若原君が急ぎ宿を探してくる。プクン・ゲスト・ハウス。宿の名前にサラはついていない。小さな旅館をラオスではゲスト・ハウスという。風呂とトイレは共用だが、それ以外に問題はない。宿の入り口の扉には、クチカクシゾウムシが何匹か、くっついている。まことに結構な宿ではないか。

 サラプクンの標高は千三百メートルを越える。町に着く前の山岳の景色に見とれる。石灰岩の山々がつらなり、近くに一つ、孤立した高峰が見える。まさに奇巌城。表現が古いのは、むろん私の歳のせい。地図で見ると、標高は1990メートル。

今回の山の様子

今回の山の様子

 若原君が選んだ宿だけあって、宿の中で昆虫採集ができる。私は部屋に入ったとたん、ゴキブリを毒ビンに入れて外に出した。床の上のコオロギは動かないので、そのままにしておいた。ゴキブリを放っておくと、顔の上を歩くかもしれない。それでは目が覚めてしまう。

 外が暗くなって、明かりがつくと、皆さん、あれこれ忙しい。廊下のあちこちに虫がいる。むろんゾウムシもいる。
 日本ではこういう宿は少なくなってしまった。虫が来るのを、客が嫌うと思うのであろう。そういうことを勝手に決めるから、世の中、だんだん居心地が悪くなる。虫の好きな客だって、現にここにいるではないか。

 そういえば、三重の秋田君から、瀞ホテルが廃業したという連絡を貰った。紀伊半島に採集に行ったとき、泊ったことがある。大正十五年築の由緒あるホテルだった。ただし二人で泊ったときは、連休中の土曜日だというのに、客はわれわれだけ。通された部屋の廊下には昼間からカーテンがかかっていた。おかみさんが「虫が入るから、カーテンは開けないでください」。こういう宿は、現代ではむろん廃業である。

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「ラオス採集記 パート2 その1」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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