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50代の男性でもここまで書ける!~『世紀のラブレター』
梯久美子著(評:島村麻里)

新潮新書、680円(税別)

  • 島村 麻里

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2008年7月25日(金)

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評者の読了時間1時間30分

世紀のラブレター

世紀のラブレター』梯久美子著、新潮新書、680円(税別)

 恋文。人は物心ついてから死ぬまでに何度くらい、出したりもらったり、するんだろう。

 いまどきは、ケータイでハートマークの一個もぽーんと押せば、瞬時に愛のメッセージ(めいたもの)を送ることができる。手軽だ。ゆえに、筆圧の強さで便箋がしなっているような自筆のラブレターなんてもんは、かえって相手に引いてしまわれないとも、かぎらない。

〈僕だけの僕だけのマコ、(中略)僕達程いや僕程幸せ者はどこさがしたっていやしないね、大好き大好き、大好き、大好き〉(※1)

 これは、石原裕次郎がまき子夫人(北原美枝)に宛てた手紙の一節である。「しめ殺す程抱きしめたい」とも。まさしく「嵐を呼ぶラブレター」だ。

 芸能人、作家、政治家、軍人、ジャーナリスト、そして皇族。本書は、20世紀を生きた日本の著名人・58人が綴った恋文のアンソロジーである。『散るぞ悲しき──硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者がまとめた。

〈ああ、シスター Kiss して下さいな。(中略)そうして二人の胸に楽しき小さき天国を作りましょうね〉

 こう書いたのは、鳩山由起夫・邦夫兄弟の祖父・一郎。自民党55年体制の牽引者は、結婚までの5年間、後の薫夫人に長文の恋文を送り続けたという。

濃い口のラブレターは自分への決意宣言

〈僕は云ひたい云つてあげたい事は限なくあつても、それの云へないのが僕の偏癖〉

 無愛想な人物として知られた作家の内田百閒も、素直になれぬ自分を吐露しつつ、将来の妻に毎週、長い手紙を出した。共産党のドンと作家のカップル(宮本顕治・百合子)は、顕治が獄中にあった約12年間に、ふたりで1400通もの手紙を交わしたという。

〈もしそこにボクがゐたら、いい夢を見るおまじなひに そうつとまぶたの上を撫でてあげます〉(※2)

 先頃「幻の遺書」が見つかった芥川龍之介は、その張り詰めたような文体とは裏腹に、こんなやさしい手紙を後の文夫人に送り続けた。が、その後、別の女性との心中に失敗した挙げ句、夫人を遺して自殺するのだ。

 本書では、不倫や心中にからむ恋文も紹介される。

〈覚悟していらつしやいまし。こんな怖ろしい女、もう、いや、いやですか。いやならいやと早く仰い〉

 富豪の妻で歌人だった柳原白蓮は、まるで脅迫状のような手紙を年下の大学生に送り、彼の元にはしる。

 読み進めるだに、どの恋文も濃いよなぁと、苦笑いがこみ上げてくる。惚れてくれるのはうれしいが、いまならストーカー扱いされかねないかも、なぁんて手紙も多数。まぁ、いまだって、会うと無口なのにメールではやたら饒舌、みたいな展開もなくはないわけだけれど。

 ただ、ラブレターを書くという行為。それじたいを考えるに、半分は、想いを寄せる相手に向けて、そして、残りの半分は自分自身に向けて綴っているという側面があるのではないだろうか。

 激しいことばで溢れる柳原白蓮の手紙にしても、である。当時彼女は35歳。いまよりももっと「おば」扱いであったろうし、姦通罪が存在した時代、不倫相手の子を宿しての出奔は命がけだったろう。

 白蓮は「自分の意志で、まったく新しい人生を生き直す契機として必要としたのかもしれない」と、著者はいう。脅しのような文面も、自分自身に対して覚悟を問うたようなもののように思えてくる、と。

 「半分は自分に向けて書かれるラブレター」。これを前提に眺めると、本書でもっとも愉快なのが、50歳を過ぎた男たちの色恋模様である。

(※1)原文では最初の「僕だけの」「大好き」の後は「くの字点」になってい ますが、これはネット上では表記できないため、「僕だけの」「大好き」の繰り返しで表示させていただきました

(※2)同様の理由で、原文では漢字表記の「まぶた」をひらがなにさせていただきました

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