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96時間のうち86時間勤務、残業代ナシ、訴えていいよね?~『名ばかり管理職』
NHK「名ばかり管理職」取材班著(評:荻野進介)

生活人新書、700円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年8月4日(月)

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評者の読了時間1時間45分

名ばかり管理職

名ばかり管理職』NHK「名ばかり管理職」取材班著、生活人新書、700円(税別)

 自宅近くのファミリーレストランをよく利用する。何人ものスタッフがいる中、一番愛想が悪くて、いつも顔に疲労感を漂わせている男性が目につく。名札を見ると店長だった。店の状態は明らかに人手不足だ。

 都内有数の幹線道路沿い、24時間営業のファミレス。激務に違いない。彼もまた、残業代なしで限界まで働かされる「名ばかり管理職」のひとりなのだろうか。

 人口に膾炙した感のある、その「名ばかり管理職」の実態を、名づけ親であるNHKテレビの取材班が、今年3月に放映された番組(NHKスペシャル)を再構成したのが本書である。

 元はテレビ番組だけに、インパクトのある事例の紹介が中心で、読みやすい。労働法専門の学者やジャーナリストが書いたら、もっと詳しく、込み入った内容になっただろう。そこが本書の長所でもあり短所である。

 冒頭で紹介される2人の事例が悲惨だ。

 ひとりはコンビニの元店長で、アルバイトが抜けた穴を自ら埋めながら激務を続けた。例えばある月の4日間は、2日続けて24時間勤務した後、店の近くにある自宅で10分だけ休んで踵を返し、深夜まで17時間勤務、翌日も22時間働くという働きぶりである。4日間、計96時間のうち86時間勤務というから、もはや奴隷以下といってもいいかもしれない。もちろん残業代はゼロである。

 20代後半のこの人は会社を辞め、現在、残業代支払いの訴訟を起こしているが、もうひとりはさらに深刻だ。

 30代前半のファミレスの店長が、労災で過労死が認められる残業月80時間をはるかに上回る、月158時間から239時間の残業を半年間続けた挙げ句、突然倒れ、意識不明の重態に陥り、寝たきりになってしまったのである。

 両親の介護を受ける、パジャマ姿の彼の写真が載っているが、二本の棒のように長細い両足が実に痛々しい。両親が訴訟を起こしたが、会社側は「あくまで自主的な労働であって、こちらに非はない」と主張しているという。

 こんな風に手遅れになる前に裁判に持ち込むべきだ、という意味を込めてか、マスコミをにぎわせたマクドナルドの現役店長の裁判事例が次に紹介される。今年1月の第一審で、店長の訴えが認められ、勝訴に至ったのは記憶に新しいところである。

管理監督者は「出退勤の時間が自由」な人

 名ばかり管理職の問題の本質は、企業が残業代を支払う義務がない、労働法で定めるところの「管理監督者」と、実際の「管理職」の働きぶりの間に大きな齟齬が生まれているところにある。

 同法で定められる管理監督者とは、

  1. 経営と一体的な立場にあり、方針の決定に関わる重い権限が付与されている
  2. 働く時間を管理されず、出退勤の時間も自由
  3. 一般社員に比べ報酬が高い

 という3要件を満たすことだ。ちなみに、先に紹介した3例とも、要件をひとつも満たしていないのは明らかである。

 ここまでで終われば、単なる企業糾弾本に過ぎないが、経営側の苦しい胸のうちを探った、次の2つの事例が読ませる。

 ひとつは労働基準監督署からの指摘を受け、管理職制度の是正に動いた書店チェーンの運営会社である。この20年間で、店舗数を4倍に急増させた同社は、拡大に見合った人材の確保と育成が追いつかなかったため、店長一人ひとりの能力が鍵を握る、それまでの店舗独立採算制を止めた。経験の浅い人でも店長になれるよう、店舗運営から商品の仕入れまで、本社が一括して管理するやり方に改めたのだ。先にあげたコンビニ、ファミレスと同じ、いわゆるチェーンストア方式である。

 この施策が「名ばかり管理職」発生の温床となってしまった。つまり、経営者並みの強い権限を持っていたかつての店長が、本社からの指示をこなすだけの一労働者になったのに、その待遇は残業代の要らない「管理監督者」のまま。その事実を知った労働基準監督署から是正勧告を受けたのである。

 社長は、店長を管理職から外し、残業代を支払うという決断を下した。その代わり、パートを増員させるなどして、店長の残業時間を減らす施策も打ったが、結局、総人件費が増えてしまった。これまでは積極的な出店で業績を確保してきた同社だが、このコスト増が足かせとなり、その戦略自体が見直しを迫られているという。

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