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「闇の子供たち」が映す臓器移植の課題

~大阪大学医学部付属病院移植医療部 福嶌教偉さん【後編】

2008年8月11日(月)

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 タイでの幼児買売春と臓器密売をテーマとした映画「闇の子供たち」。この作品に取材協力をした福嶌教偉さんは、現役医師として、臓器移植法改正に精力的に取り組んできた。映画と現実との違い、そして今後の臓器移植のあり方について、引き続き話をうかがった。

前回から読む)

── 映画では、子供の心臓移植とともに、臓器売買の問題を描いていますが、現実にはない、これは映画のフィクション部分というのは、どこなんでしょうか。

大阪大学医学部付属病院移植医療部 福嶌教偉氏

大阪大学医学部付属病院移植医療部 福嶌教偉氏

「まずはタイで、日本人が心臓移植を受けた例はないということですよね。

 次に、心臓移植を受けようと思っている子供の両親が、よその子供を殺してまで自分の子供を助けたい、精神的にそう思っている人は、一人もいないということです。

 親だから、子供をなんとしても助けたいという思いはあっても、みんな我慢して死んでいっている。人を殺してまで、生きたい、生かしたいという親はいません。

 もう一つ、心臓移植はリスクが高すぎて、儲けということでは成立しないかもしれない。

 というのも、心臓移植をしようと思ったら、心臓を止めている間に人工心肺の器械を動かしていないといけないし、手術するためにはたくさんの人がいる。

 腎臓移植なら、ある程度うまい人がいたら、助手と二人で手術をすますことができる。でも心臓の手術はぜったい少人数ではできませんから。それはありえない」

 心臓麻酔の専門医と、人工心肺の器械をまわすのに1人、手術医が3人と看護婦という具合に計算していくと、エキスパートが8人は揃わないと心臓移植は行えないという。

「8人を口止めして、儲けも出そうなんて考えたら、ビジネスとして儲からへん。それに、見つかったときには心臓だったら死刑でしょう。タイの外科医といえばエリートの人たちです。その人たちがいくらなんでも、そんな危ないことに手を貸すとは思えない。映画では、なんらかの事情があってということにしているけれど、そこは医療の現場にいる者の目からすると、映画のフィクションといえるでしょう」

臓器は石油じゃない

「闇の子供たち」 (C)2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

闇の子供たち (C)2008 映画「闇の子供たち」製作委員会
(阪本順治監督、配給:ゴー・シネマ)
8/2(土)よりシネマライズほか全国順次ロードショー

── 映画では、手術を待つ子供の母親が「タイでの移植には生きた子供の臓器が使われる。手術を断念してほしい、そうでなければ人の命を金で買うことになる」と、NPOの女性から詰め寄られ、思わず母親が「あなたは息子に死ねと言うのですか」と激してしまう場面があります。

「あそこは僕も悩んだんだけど。あのお母さんが、ある意味、感情的には母親らしいのかもしれない。自分の子供のことでまわりが目に入らなくなっているわけですから。

 でも、僕としては、ちがう言い方をしてほしかったなぁというのはあります。すくなくとも、僕が目にしてきたお母さんたちは、違っていましたから。ただ、そのかわりといってはなんですが、父親役の佐藤浩市さんがあそこで語る台詞は、僕が書きくわえたものを生かしてもらいました」

 タイで自分の子供が移植を受けるのは、前提として「正規のルール」に従ったものだと信じるからだと父親は言い、「石油じゃないんだぜ。よその国に頼るなんて、オレだってしたくなかったよ」と苦悩をぶちまけている。

 その後も監督やプロデューサーとの交流は深まり、企画の進展とともにシナリオが書き換えられていく過程にも、福嶌さんは触れることができた。身近に映画づくりの一端を体験するなか、チームワークということでは、外科の手術と映画づくりには通じるものがあるという。

「外科もチームでやっていますからね。誰と組むのかで同じ手術もぜんぜん違う」

 福嶌さんの専門は、小児の心臓手術。前の日の検査をみて、こういうふうに手術をしようとプランニングし、スタッフに納得させる。それに心臓を止めるまでに、わからないことがある。心臓を長い時間は止められないので、手術は迅速を要する。

「言葉は適切じゃないかもしれないけれど、限られた時間のなかで、一つの作品を作り上げるようなもので。そういう意味では、映画に通じるところがある。チアノーゼといって身体の中に酸素が少ない子供の手術だと、紫色をしていた顔色が、病室に帰ってきたときにはピンク色なんです」

 このとき、治してもらったということを、親も実感する。外科医のやりがいは、目に見える成果がすぐにでるところにある。

外科医を選んだ理由

 福嶌さんは、本来は外科医を志したわけではなかった。

「もともとは研究したかったんですよ。日本でいちばん最初の心臓移植だった和田移植があったのが、小学6年生のときでした。そのとき夏休みで、テレビで見ていたんです」

 最初は移植医に対して、マスメディアは神様のように賞賛した。しかし、移植を受けた人が亡くなったとたん、メディアも世論も、非難の嵐へと逆転した。そのとき福嶌さんは、こう考えたという。

「ドナーがなくても救うことができたのなら、こういう騒動もなかったんだろうな」

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