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プロジェクトXでは、やつらに勝てない~『ジェネラルパーパス・テクノロジー』
野口悠紀雄・遠藤諭著(評:麻野一哉)

アスキー新書、743円(税別)

  • 麻野 一哉

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2008年8月7日(木)

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ジェネラルパーパス・テクノロジー──日本の停滞を打破する究極手段

ジェネラルパーパス・テクノロジー──日本の停滞を打破する究極手段』野口悠紀雄・遠藤諭著、アスキー新書、743円(税別)

 このところ、ずっと日本経済はイマイチだ。IMFの調べによれば、去年の一人当たりのGDPはついに世界ランキング22位になってしまった。

 昔はちがった。1995年は、日本の一人当たり国民所得(GDPではないが、近似値として)は3万1658ドルで世界一、アメリカの1.3倍もあったのだ。しかし、去年は3万4312ドルで、4万5845ドルのアメリカの7割ほどしかない。1位はルクセンブルクで日本のほぼ3倍、10万4673ドルだ。

 なぜそれほどの差がついたのだろう? それに、ほんの10年ほどのあいだに、21もの国に抜かれてしまったのはなぜなのだろうか?

 本書はその理由に「IT」を挙げる。世界はITによって大きく変貌した。そして、変貌した世界に適応した国は成長し、しなかった国は停滞した、という。

 昨今、大きく伸びた国の代表に、かつて「ヨーロッパで最も貧しい国」といわれたアイルランドがある。1995年時点で日本の半分しかなかった同国の一人当たりのGDPは、現在、日本の1.8倍にまでふくれあがっている。インド、フィンランド、ノルウェーなども成長が著しい。

 その反面、凋落の目立つ国もある。日本もそうだし、ドイツ、フランス、イタリアなどもそうだ。

 伸びている国には、「農業国から工業時代を飛ばして、いきなり情報産業の国へ脱皮している」という共通点がある。逆に、凋落タイプの国は、輝かしき工業国時代のノリを捨てきれていない。

 「いや、日本の光ケーブルの普及はすごい」「通信費の安さは特筆ものだし、携帯電話も高性能だ」といった反論もあるだろう。しかし、本書が指摘する「IT」というのは、もっと根本的な変革を意味する。

 今の日本は、ITの恩恵を本質的な意味で享受していない。社会問題になるほどネットが普及し、子どもまでもが携帯電話を持つようになっても、それはITの一部にすぎない。と、本書の共著者の一人、経済学者の野口悠紀雄はいう。そして、ITを考える上で最も大切なのは、ITは「ジェネラルパーパス・テクノロジー(以下:GPT)」である、ということだと訴える。

〈GPTとは、産業横断的に使用され、さまざまな用途に使用しうる技術のことである。その特徴としては、発展性、改良・改善の可能性、他の技術との補完性があげられる。IT以前のGPTの具体例としては、電力・電気や内燃機関がある。また、蒸気機関、鉄道、自動車などその例とされることもある〉

 電気や鉄道は世界の姿を変えた。蒸気機関がなければ黒船もなく、日本にペリーが来ることもなかった。ヨーロッパの植民地支配も、大きく形が変わっていただろう。GPTというのは、それほどの破壊力をもった技術なのだ。

ITを使って効率を上げるか、仕事そのものを変えるか

 しかし、日本では、ITに対して、「コンピューターを使って仕事をすること」くらいの認識しかもたない経営者が多い、と著者は嘆く。「あれば便利な道具」くらいにしか思ってない。

〈日本は、ITの経営効果として「間接部門コスト削減」や「在庫コスト削減」など業務効率化をあげる企業が多いのに対して、アメリカでは、「新製品・サービスの開発、新規事業の開拓」や「主要事業における競争力強化」をあげる企業が多い〉

 たとえればこういうことだろう。「電気が使えるようになりました。日本の企業では、机上のランプを電灯に変え、経費削減になった、便利になった、と喜んでいます。しかし、他国では、電話やラジオなどの新製品を作ろうとしています」。もちろん、すべての日本の企業がそうだというわけではない。そういう傾向があるという話だ。

 GPTは産業構造そのものを変える。電気や内燃機関は産業革命をひき起こし、世界的に工業化時代がはじまった。

 工業化時代に適した生産システムは、「垂直統合」だった。これは、設計から製造、販売まで、すべて一社でやり繰りすることをいう。有名なのは製鉄会社のカーネギー社だ。ここは、製鉄工場だけでなく、鉱山、炭鉱も押さえ、輸送用の鉄道まで自社でまかなった。その方が、「取引コストの低下」や「材料や部品の安定供給」などのメリットが得られたからだ。多くの「ケイレツ」を有する、日本のトヨタなども「垂直統合」の一例だ。

 ところが、IT時代になると話が変わってくる。情報の入手が容易になるため、他所に振った方が、有利な場合が生じてくる。たとえば、PCの生産。ソニーのVAIOでも、DELLのPCでも、中に入っているCPUやハードディスクは自社で製造したものではない。他社から調達した部品を組み立て、自社製品として売っている。これを、「水平分業」という。

 このように「外にまかせる」のは、モノだけではない。経理の計算や電話応対といった社内業務も可能だ。前述のアイルランドやインドといった国が大きく発展したのも、アメリカ企業のアウトソーシング先としての存在感が増したことが大きい。アイルランドは企業のデータ処理を請け負うことから、インドは企業の電話案内を代行することから、IT産業が成長した。

 翻って日本である。日本は工業化時代にはうまく適応した。年功序列や終身雇用といったシステム、家族的な企業風土は、「垂直統合」に向いていた。それがうまく稼動していた80年代は日本の黄金期だった。しかし、そうしたシステムや心性が、今のIT時代では大きな足かせとなっている。

コメント9件コメント/レビュー

野口氏の分析はいつも表層的だ。今回の金融業でのシステム障害の多発が日本のIT問題の縮図と言う指摘も間違い。日本の銀行がIT化において過剰なまでのサービス機能を持ち込んだために障害が起きたものだ。今どき、生産性向上の為のIT化への意識が薄い経営者などいない。分析力が甘いと思う。(2008/08/19)

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いただいたコメント

野口氏の分析はいつも表層的だ。今回の金融業でのシステム障害の多発が日本のIT問題の縮図と言う指摘も間違い。日本の銀行がIT化において過剰なまでのサービス機能を持ち込んだために障害が起きたものだ。今どき、生産性向上の為のIT化への意識が薄い経営者などいない。分析力が甘いと思う。(2008/08/19)

ルクセンブルクが一人当たりGDP1位なのは,金融資本主義ここに極まれり,というだけで,"IT"とは関係ありません。百歩譲って,Internetがグローバリズムと金融資本主義の下敷きになっているのは認めるとしても,それを"IT"なる定義さえ曖昧な言葉と関係付けるのは強引というものでしょう。金融資本主義の背後にあると考えられている"金融工学"は"IT"の賜物だと,経済学者であるところの野口氏は思いたいのでしょうが,"金融工学"は数式を使った幻想(もっと言えば詐欺)に過ぎず,工学と呼べる代物ではありません。"IT"云々に関わらず,金融資本主義それ自体が現実であることは認めますが,それを"IT"と結びつけることは無意味です。そもそも本書の中で"IT"の定義をちゃんと示し,それに沿って論を展開しているのでしょうか? それすらできていなければ,内容のレベルは推して知るべし,です。(2008/08/18)

数年前ならいざしらず、グローバリズムという単語が放っていた輝きも鈍くなり、各所に綻びが見え始めている時期になって何故今更?といった話題に思える。実体経済を無視して構想ばかり膨張した挙句に破滅したアメリカの金融業を見た後では、地に足をつけずに語られるIT論評からも同じ臭いが嗅ぎ取れます。宇宙産業で世界をリードする筈のアメリカが、スペースシャトルを飛ばすにも人工衛星を溶接するにも日本の特定の中小企業に頼まないと成り立たない、等のような事例は枚挙に暇がなく、要素技術における日本の製造業は今も健在です。反面、水平分業に見られるように大規模集約型の企業がイニシアティブを失っているという現象は事実ですが、これをどう解釈すれば「モノづくり思考」が害を及ぼしているという方向で結論付けられるのか不思議でなりません。光ケーブルの話題が出ていましたが、あれを初めて発明したのも日本の技術者で、現在アメリカの企業に権利を持たれているのも当時の日本政府の東大派閥によって発明を封じ込まれた為に生じた官製大損害といえます。政治家の無能ぶりなど今に始まったことではありませんが、結果的にモノづくりを大事に考える人々が邪魔者扱いとはあまりと言えばあまりな論評でしょう。(2008/08/13)

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